最期の船長命令





エースとベッキーの…全世界が見守る中での結婚のキス。それは今までの凄まじい戦争が嘘のように甘く、そして切ないものだった。誰もが二人を見つめ、唖然としていた…。

「…エース…」

唇を離してベッキーはそっと囁いた。傷の痛みなんてもうどうだっていい。エースはベッキーの腰を抱き寄せ、もう片手で彼女の背中を撫でる。まるでモビーディック号にいたあの頃のよう。

「……ベッキー、もうお前はおれの妻だ……ポートガスの名を……そしておれのもうひとつの名を受け入れて…くれるか?」
「……はい」

ゴール・D・エースというもうひとつの名前――…海賊王の血筋として…。














「…何を傍観しちょるんだ…貴様らァ…」
「!!サカズキ大将!!!」

沈黙を破ったのは赤犬だった。彼の一言で海兵達がハッと我に帰る。

「世界で最も凶悪な海賊夫婦が生まれたんじゃァ…この場で処刑しなけりゃァ…!!奴等はいずれ世界を混沌に落とす!!!」
「そ、そうだ…」
「火拳と王女を殺せ!!!」

再び海兵達が刃を向けて襲ってくる。エースも顔を上げ、片手でベッキーを抱き上げるともう片手で炎を放つ。

「“火拳”っ!!!」
「ぐわっ!!」
「エース、ベッキー!!」

ルフィも参戦し、三人はまた走り始める。ベッキーはエースの腕から下りると海兵達を弾き飛ばす。

「とにかくこのマリンフォードから出るのよ!!」
「ああ!!こんなところに用は無ェ!!!」

エースとルフィはマリンフォードから離れるべく、ひたすら走る。エースは走りながらルフィの顔を見て言った。

「強くなったなルフィ!」
「いつかエースとベッキーも超えてみせるさ!!」
「ルフィにはまだ無理よ、ふふっ」












だが、その前に立ちはだかる敵…

「“アイス塊<ブロック>”」
「青雉大将」
「わ!!あいつ」
「青雉!!!」

冷気を纏って現れたのは大将青雉だ。ルフィは一度敗北し、ベッキーは過去に関わった人物…エースが炎を出す。

「じゃあ今はまだおれが守ろう。下がれルフィ、ベッキー」

同時に青雉の氷とエースの炎が激突。

「“暴雉嘴<フェザントベック>”!!!」
「“鏡火炎”!!!」


青雉の氷を溶かすエースの炎。だがさすがに大将青雉、それだけでは倒れない。










その最中、いきなり白ひげ海賊団の外輪船が動き始めたのだ。

「うわああ!!!みんな避けろ敵の艦が動き出したぞォ!!!」
「近寄るな!!!外輪で陸を走ってる!!!」

海兵達が叫ぶ中、海賊達も探り続ける。

「おい誰が乗ってるんだ!!!」
「オヤジ!!!みんな逃げてくれェ!!!この戦場おれ達が請け負った!!!」
「!!?」

外輪船に乗っているのはスクアード率いる大渦蜘蛛海賊団だった。白ひげを刺した事を――今でも後悔している彼は自らの運命に決着をつけるため、こんなことを…

「スクアード!!!」
「大渦蜘蛛海賊団だ!!!」
「あの野郎共…」
「バカなマネやめろスクアード!!!」
「てめェ死ぬ気じゃねェか!!!」
「……!!そりゃそうさおれはオヤジにそれだけのことをした」

震えながらスクアードは叫ぶ。

「たとえ償いにならなくても…!!こうでもしなきゃおれの気が収まらねェ!!!エースを連れてみんな逃げろォ!!!」

海楼石の手錠が外れないマルコが息を荒げながら言う。

「スクアードの奴…!!つまらねェ方法を選びやがって!!おいこの錠早く外せよい!!」





ところが、いきなり外輪船が動きを止めた。自ら止めたのではない。誰かに止められたのだ。

「!!!?」
「うおおおおおっ!!!何だ船が止まったぞ!!」
「………!!!」
「ハァ…ハァ…」

それはなんと白ひげの腕一本。

「オヤジィ!!」
「子が親より先に死ぬなんてことがどれ程の親不孝か…ハァ、てめェにゃわからねェのかスクアード!!」
「……」
「つけ上がるなよお前の一刺しで揺らぐおれの命じゃねェ…!!誰にでも寿命ってもんがあらァ…」
「………!!」
「ここでの目的は果たした…もうおれ達は」
「オヤジさん…」
「オヤジ…!!」
「この場所に用はねェ!!……!!ゲホ」

息も絶え絶え…白ひげの体はもう限界だ。海賊達が辛そうに白ひげを見つめる。

「今から伝えるのは……!!最期の“船長命令”だ……!!!よォく聞け……白ひげ海賊団!!!」
「!!?」


まさかの言葉に海賊達は驚きを隠せない。

「最期ってちょっと待てよオヤジ!!縁起でもねェ!!!」
「そんなもん聞きたくねェよォ!!!」
「一緒に新世界へ帰るんだろ!!?」

その言葉は戦っていたエースとベッキー達にも聞えていた。思わず足を止める二人。

「オヤジ…!!!」
「パパ!!!どうして!!!」
「お前らとおれはここで別れる!!!!全員!!必ず生きて!!!無事新世界へ帰還しろ!!!」

白ひげの決断…海賊達は戸惑うしかない。大好きなオヤジを置いて行くなんて…。

「オ……オヤジィ!!?」
「ここで死ぬ気か!!?」
「おれァ時代の残党だ……!!!新時代におれの乗り込む船はねェ…!!!







行けェ!!!!野郎共ォ〜〜〜〜!!!」


叫ぶと共に白ひげは大気にヒビを入れて海軍本部の要塞に向けて地震を起こした。ラクヨウが泣き崩れて叫ぶ。それをクリエルが宥める。

「いやだオヤジィ〜〜〜!!!」
「船長命令だ!!……!!行くんだよ!!!」

ルフィ、エース、ベッキーも白ひげを見つめて叫ぶ。

「おっさん!!」
「オヤジ……!!」
「パパ!!!いやよ、そんな!!!」

ベッキーの泣き叫ぶような声が白ひげの耳にも届いた。脳裏に浮かぶのは初めてベッキーを掌に抱いたあの日……生まれたばかりの我が子を置いて海へ出た自分…だが、娘は自分を探し当てた。探すために海へ出た……。愛する、血の繋がった実の娘。センゴクが悔しげに表情を歪める。

「白ひげ」












…頭に浮かんだもっと昔の話。まだ若かりし頃……







「海賊が財宝に興味ねェなんてよ。お前一体何が欲しいんだァ?」
「……」
「おいニューゲートォ!!」











「ずいぶん長く旅をした……


決着をつけようぜ…海軍!!!」



最期の船長命令

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