ルフィに懸ける白ひげの希望





「王女!!!」
「邪魔よ!!!」

次から次へと海兵達がベッキーを襲ってくる。その度にベッキーは蹴り飛ばす。ほとんどが彼女の腹部を狙ってくる。

(こいつら…みんなこの子を狙って…)

エースとベッキーの血を継ぐ次世代の子。それをこの世に生まれさせてはならない、それが海軍の考えだ。例えエースを処刑してもこの子が生きている限り意味はない。海賊王と白ひげの血筋が途絶えなくては…。だが、ベッキーは先程からほとんど蹴りしか攻撃していない。鬼撫子を握る事が出来なかった。右肩から腕にかけて赤犬のマグマに掠り、火傷を受けた。今ではほとんど右腕の感覚がなくなっている。利き手ではない左手ではうまく刀を握れないのだ。

「ハァ、ハァ…」
「王女は右腕が使えない!!今がチャンスだ!!!」
「火拳の子供もろとも殺せェ!!!」
「ハァ、ハァ」

ベッキーは一気に海兵達を蹴り飛ばした。その時、右腕が強く痛んだ。

「ウウッ…!!!」













同じ頃、マルコは海楼石の手錠をはめられ能力を封じられた上に黄猿の攻撃を受け、ジョズは青雉によって全身氷漬けにされてしまった。

「崩れたな“白ひげ海賊団”…」

青雉が呟く。白ひげ、マルコ、ジョズ、ベッキー――白ひげ海賊団の主力が次々とやられていく。センゴクが叫んだ。

「グズグズするな!!!“白ひげ”の首を取れェ〜〜!!!」
「オヤジ〜〜〜〜〜!!!」

次々と海兵達が駆けだしていく。そして、その銃弾は次々と白ひげに向かっていく。白ひげ海賊団のクルー達が助けに向かおうとするが…

「来るな!!!」
「!!?」

息も絶え絶えに白ひげは呟くように言葉を紡ぎ出す。

「…こいつらァ……これしきで……!!ハァ…ハァ…おれを殺せると思ってやがる。助けなんざいらねェよ……ハァ…ハァ…」
「パパ…!!!」






「おれァ“白ひげ”だァア!!!!」

海兵達を薙ぎ倒すその薙刀の一撃はすべての人々を震撼させた。誰もが思った。その姿まさに…

(か…怪物!!!)

白い怪物――エドワード・ニューゲート、世界最強の男。老いてもなお…その力衰えることなく。これが、海賊王と渡り合った大海賊。

「…パパ…」
「…おれが死ぬ事…それが何を意味するか…おれァ知ってる……!!…だったらおめェ…息子達の…娘の、明るい未来を見届けねェと、おれァ死ぬ訳にはいかねェじゃねェか…!!!なァ、エース、ベッキー」
「……!」
「…っ」

エースとベッキーが白ひげを見た。すると、白ひげの背後に数人の人影。

「何だ!?コイツら“白ひげ”の後ろに構えて!!」

それはジンベエと白ひげ海賊団の隊長達。

「……」
「ハァ…ハァ…お前らにゃあ…わからんでいいわい」
「おれ達はオヤジの“誇り”を守る!!!」
「気が利きすぎだアホンダラ」
「みんな」

ベッキーが呟いた。すると、センゴクが白ひげに向かって言う。

「未来が見たけりゃ今すぐに見せてやるぞ。“白ひげ”!!やれ!!!」
「!!!エース!!!」
「エース〜〜!!!」

再びエースが処刑されそうになる。白ひげはすぐ駆け付けようとするが…

「ムダだそれをおれが止められねェとでも…ゴフ!!」

目眩と吐血。そのせいでエースの処刑に間に合わない。誰もがもう…そう思った瞬間。








「やめろォ〜〜〜〜〜〜!!!!」

















何が起きたかわからなかった。ベッキーのまわりにいた海兵達がグラリと倒れ、彼女はルフィを見る。その海兵達だけじゃない、マリンフォードにいた大半の海兵達が突然気を失い倒れたのだ。

「覇王色の…!!!」

それは選ばれた者しか身につけること出来ない“覇王色の覇気”。シャンクス、白ひげ、ハンコック…そしてエースといった人の上に立つ王の気質を持った者だけが持つ人を圧倒させる覇気。まわりがざわついた。

「おいおいマジか…!!」

青雉が意外といった顔で呟き、イワさんが焦ってルフィに話しかけた。

「ヴァナタ今の!!」
「今助けるぞォ〜〜〜〜!!!」
(あの小僧…!!!)

白ひげは瞬時にしてルフィを見抜く。ベッキーは唖然とする将校クラスの海兵を蹴り飛ばすとすぐさまルフィのもとへ走っていった。

「ルフィ!」












気絶したのは海兵だけでなく海賊達の中にもいた。それほど凄まじい覇王色の覇気。

「エースの弟…!!」
「うおおおお〜!!」

ルフィは自分が何をしたのかわからずにひたすら処刑台に向かって走る。

「オヤジや赤髪と同じ“覇王色の覇気”!!」
「あいつがやったのかよい…!!?」
「どうやら今のは……無意識じゃのう……」
「恐ろしい力を秘めてるねェ〜」
「……」
「――やはり持って生まれたか…」
「お前も……」

全員が驚くばかり。ドラゴンの息子だから当然といえば当然だ。

「気の弱い者は下がれ!!!ただのルーキーだと思うな!!革命家ドラゴンの息子だ…当然といえば当然の資質…!!」
「ドーベルマン中将!!」
「奴をこの戦いから逃がすなよ。逃がせばいずれ必ず強大な敵となる!!!」
「まず“白ひげ”だ!!!“怪物”とはいえこれだけの手負い!!!」
「何としても薙ぎ倒せ!!!」

海兵達はルフィよりも白ひげに狙いをつけた。白ひげの体にはいくつもの傷。そして持病の悪化により弱っている。それでも海兵達を圧倒する白ひげは海賊達に向かってある命令を下す。

「野郎共ォ〜〜!!!





麦わらのルフィを



全力で援護しろォ!!!!」

「!!?」
「……!?エースの弟を!!?」

意外な命令に海賊達は驚きを隠せない。

(……!!やってみろ小僧……!!お前も“D”の意思を継ぐ者ならばこの時代のその先をおれに見せてみろ!!!)

息をつくのも辛い白ひげ。だが、ルフィに望みを感じた彼はあの命令を下したのだ。一方、ルフィに海兵の攻撃が迫る。イワさんが思わず叫んだ。

「危ない麦わらボーイ!!!」
「!!」

ルフィに迫る刃。それを…






ガツンッ!!!

「!!ベッキー!!!」
「ハァ、ハァ、ルフィ!!大丈夫!?」
「あァ、ありがとう!!!」

海兵を蹴り飛ばしたのはベッキーだった。さらに傘下の海賊達もルフィを狙う海兵達を攻撃する。

「ベッキーちゃん!!!」
「ハァ、ドーマ…マクガイ、ディカルバンちゃん達っ」
「ベッキーちゃん、エースの弟を連れて行く!!」
「エースの弟を連れていく、ベッキーちゃん!!」
「お前は腕が使えない!!無理するな!!」
「ハァ、ありがとう!!」
「急げ!!エースの弟!!今海軍の戦力はオヤジに向いてる!!!この黄を逃すと大将は越えられねェぞ!!!」
「……!!」
「一点突破だ!!おれ達と来い!!!」

ルフィは何がなんだかわからなかったが、傘下の海賊達を追って走り出す。ベッキーとイワさんも走りながら言った。

「一大事よ麦わらボーイ!!世界一の海賊がヴァナタを試してる!!!」
「!?」
「ヴァナタ“白ひげ”の心当てに応える覚悟あんのかいって聞いてんノッキャブル!!!ヒ〜〜ハーァ!!!」

海兵を蹴飛ばしたイワさんが叫ぶように言った。

「白ひげのおっさんがなんだか知らねェけど!!!おれがここに来た理由は!!始めから一つだ!!!」

すると後方から凄まじい音がした。白ひげが苦戦しているらしく、ベッキーは思わず足を止めた。

「!!!ベッキー!?」
「プリンセスガール、ダメよ!!」
「…っルフィ、大丈夫!!先に行って!!!」

ベッキーはたまらず高く跳躍すると白ひげの頭上へ飛んでいった。それに海兵が気付き、銃口を向ける。

「白い王女だ!!」
「狙い撃てェ!!!」
「パパ―――!!!」
「!!!ビクトリア」

ベッキーは銃弾を避けていく。すると白ひげが叫んだ。

「ビクトリア!!!そのまま浮いてろ!!」
「!!はい!!!」

白ひげが手に震動を込めて拳を振るい、地震を起こす。それだけでも凄まじい力なのだが、大気に響く地震の圧力をベッキーは感じて白ひげの考えを悟った。

「…っすごい圧力…」

ベッキーが大気の圧力を踏み台にしてさらに高く空へ舞う。そしてそのまま圧力を足に込めて…

「はぁああぁあ!!!!」
「!!?」
「うわああああ!!!!」


白ひげの地震とベッキーの圧力技のコンビネーションはまさに最強だ。

「な、なんて親子だ…!!」
「白ひげと…王女…!!実の血縁関係の親子…っこれで頷ける!!」

いくら外見が違おうと、その実力を見れば血筋を感じざるを得ない。ベッキーが地上に降り立ち、白ひげを見た。

「パパ!」
「…ひでェケガだな」
「……腕は動かない。でも私には足がある!」

白ひげの心中は辛かった。見れば、右腕が動かないのは見てとれる。ひどい火傷だ。そして体中ボロボロ…まだ若く、美しい我が子がこんなにも傷ついている。父親ならば誰もが辛い思いをする。

「…今更休んでなんかいられないからね。パパに似て…一度やったらやめないタチだから」
「…わかってらァ……エースの弟を追え、馬鹿娘が…」
「わかってる…ジンベエ、パパをよろしく!!」
「ああ、わかっとる!!」

それだけ言うとベッキーは再び飛んでルフィ達のもとへ飛んで戻る。すると、イワさんが何やら誰かに話しかけた。

「悪いわねヴァナタの力が必要で」
「おやすい御用ですイワさん…!!」

声の主はなんとイワさんの髪の中から現れた。ワインを片手に持った、サングラスの男。

「ご心配なく…」

革命軍の幹部、イナズマである。そして彼もまた能力者。イワさんは走るルフィに気付く。

「処刑台は近い!!麦わらボーイ!!!」
「ああ!!!」
「ヴァナタまっすぐ走りなさい!!!」
「ルフィ!!」

処刑台に向かって走り続けるルフィ。するとその横をイナズマが走り、両手をハサミに変えると何やら行動をし始めた。

「え」
「…すごい!!」

ベッキーが地上に降りてその光景を目の当たりにする。そこには処刑台へ続く石の橋が出来ていたのだ。

「うわああ何だこれはァ〜〜!!?」
「!!?」
「カニちゃん!!」
「あれは…“革命軍”のイナズマ!!!」

イナズマはチョキチョキの実の能力者。彼は石の床を斬り裂いて処刑台への道にしたのだ。

「ルフィ君ゆけ!!」
「おう!!ありがとう!!」

エースは驚きの表情で登って来るルフィを見つめていた。海兵達はルフィを落とそうと攻撃する。

「行かせるなァ〜!!!」
「!!ルフィに手出しはさせない!!!」

ベッキーが海兵達を蹴り飛ばし、それを阻止する。もうすぐ、もうすぐだ。エースを助けられる。

「行け麦わらァ!!!」
「ルフィ―――!!!エースを!!!助けて!!!」
「行かせないよォ」

妨害しようとする黄猿を薙刀で斬る白ひげもまた処刑台を見た。

「来たぞ〜〜〜!!!エース〜〜〜!!!」

叫ぶルフィ。もうエースの救出は時間の問題…誰もがそう思っていた。もう誰も…阻むものはいないと。






「あ!!!!」






だが、ルフィの前に立ち塞がったのは…

「!!!おじいちゃん!!!!」
「じいちゃん!!!!……!!!!そこどいてくれェ!!!」
「どくわけにいくかァ!!!ルフィ!!!わしゃァ『海軍本部』中将じゃ!!!」




ルフィに懸ける白ひげの希望





■あとがき
一気に連続upですが、かなり波に乗ってます(笑)
いよいよエース解放に近づいてきてますね。ここら辺はほんと希望に満ちてます。


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