最強の死闘 王女VS三大将





「いくら白ひげの娘ってもねェ〜…わっしらに一人で戦いを挑むなんて無謀だよォ〜…」
「お嬢、お前の度胸だけは一人前だけどおれ達の強さを知らないわけじゃねェだろ」
「小娘といえど海賊…!!白ひげの実子にして、海賊王の血を次世代に継ごうとしてる罪人じゃけん…容赦はせんぞ」
「上等よ!!!」

白ひげ海賊団の“王女”ベッキーは今、人生で最も危険な戦いに身を投じようとしている。海軍最強の三大将との戦い。それはあまりにも無謀かつ危険。鬼撫子を抜き、鞘を投げ捨てる。もう刀は鞘に納めないということだ。

「!!!ベッキーやめろ!!!」

処刑台の上から叫ぶエース。今すぐにでも止めさせたかった。三大将に勝てるはずが無いのに。それに腹にはまだ見ぬ我が子がいる。だが、ベッキーは跳躍し、刀で三大将に斬りつける。

「!!…覇気使いか」
「オォ〜…でも…素早さだったらわっしも負けないんだけどねェ〜」
「!!」

ベッキーの真横から黄猿が現れ、蹴りを放つ。咄嗟にベッキーは刀でそれを止めた。だが、今度は背後に赤犬の影。

「小娘の分際で……





生意気に楯突くなァァア!!!!」
「!!!」


赤犬のマグマの拳がベッキーに直撃した。それを目撃したエースとルフィは息が止まりそうになる。

「「ベッキー―――――――――――!!!」」

その叫びが包囲壁の向こう側の海賊達にも聞こえる。

「なんだ!?ベッキーが!!」
「ベッキーがどうかしたのか!?」
「!!!ベッキー!!」

危機感を感じて不死鳥の姿になって飛び立ったのはマルコだった。白ひげは壁の向こうの娘を思った。

(ビクトリア)














「ハァ…ハァ、ハァ…」
「ベッキー…!!」

宙にボロボロになったベッキーの上着が舞い、パサリと地に落ちる。鮮やかな水色だった上着はベッキーの血と、マグマに焼かれて黒く焦げていた。

「ほゥ…さすがにすばしっこいのォ〜…“白い王女”」
「ハァ……っ」

先程の攻撃を間一髪で避けたベッキー。だが上着と右肩を掠めてしまい、今はタンクトップ姿だ。しかも右肩が軽い火傷を負った。

「ベッキー!!」
「……ハァ、ハァ…さすがに強いわね」

なんとか腹への攻撃を免れた。ベッキーはいつも以上に戦いに緊張している。なんせ、腹を攻撃されたら自分どころか赤ん坊まで失ってしまう。

(そんなことさせない…でも…エースを助けたい…)

自分の子の父親となる男。必ず救いださなくてはならない。きっとルフィがやってくれる。それまで時間稼ぎをするのは自分だ。

「お嬢…もう諦めなよ。火拳は助からない。お前は無駄な事をしてるんだよ」
「!青雉…」

ベッキーの足元に氷を放った青雉。ベッキーは軽やかに避けて青雉を見据えた。かつて二人は偶然に同じ島で出会った。その時、ベッキーはその男が三大将の一人、青雉だと知らずに明るく接していたのだが後からそれが青雉だと判明して驚愕したということがあった。それ以来の再会。だが今は敵同士だ。

――お嬢はさァ、海賊として生きてて楽しいのか?
――はい。とっても!


あの島での夜が嘘のようだ。

「海賊はこういう運命をたどるんだよ…!!たとえ女でもな…」
「そんなことは覚悟して生きてきた!!変わりはしない!!!」

ベッキーが高く空へ舞う。その姿は包囲壁の海賊達にも見えた。

「ああ!!!あれは!!」
「ベッキーだ!!!」
「!!(ビクトリア)」







「“堕神<ダウンゴッズ>”!!!!」
「!!!」





ベッキーが凄まじい圧力とスピードで地に落ちた。まるで巨大な何かが地上に落ちてきたかのような勢い。強力な圧力は三大将にも効いたらしい。

「ぐう…!!」
「小娘がァア…!!!」

だが、それは赤犬の怒りを目覚めさせてしまったらしく。

「!!逃げろ、ベッキー!!!」
「…!!」
「この……世界の異端児がァ……!!!





女はおとなしくしておかんかい!!!!」
「きゃっ…!!!」
「ベッキー―――!!!!」


今度は本当にベッキーに決まった赤犬の拳。ベッキーは右肩から腕にかけて攻撃された。

「っああ…!!!く…っ」
「腹を攻撃したつもりだったんだがのう…咄嗟に避けて腹への攻撃を免れたか」
「オオ〜…痛そうだねェ〜…こんな若くて可愛い女の子には酷だねェ〜…」
「………」

青雉だけが何も言わずに倒れて苦しむベッキーを見つめていた。

「う……っく……(右腕が…動かない……)」

効き手をやられた。だが腹の子に比べたら…それにまだベッキーには足があった。

(足さえやられなければ戦える)

圧力を最大限に武器として使えるのは足。鬼撫子は左手で扱うしかないが、まだ両足での攻撃はできる。エースは涙が出そうになる程、辛くて辛くてたまらない。自分は何もできずに、愛する女が傷つく様を見ているしかないなんて…。

「ベッキー……っ!!!」

自分のために。エースは直視できなかった。…それでも、ベッキーは震える足で立ち上がる。痛む右腕。だが、もっと真正面から攻撃されていたら肉も骨も溶けるほどだったのだろう。火傷を負ったが、肉が溶けるほどではなかった。だが刀を握ったらきっと腕がイカれてしまうだろう。左手で鬼撫子を掴むベッキー。

「ハァ……ハァ……お前達の相手は私…!!まだまだ私は戦えるわよ」
「…ホントにしぶといねェ〜王女〜…」

今度は黄猿が指先からレーザーを放ってくる。まさに光の速さ。だが、素早さはベッキーだって負けてはいない。レーザーはベッキーの頬を掠め、彼女の髪をまとめていた赤いシュシュを焼き千切った。

「っ!!」
「!!!」

バサリ、とミルクティー色のウェーブのかかった長髪が流れる。さらに黄猿はレーザーを続け、必死に避けるベッキー。その度にレーザーは彼女の体を掠めていき、黄猿は故意に急所を狙わないのだと気付いた。少しずつ弱らせていき、動きを鈍らせる作戦だ。ベッキーの体中は傷だらけ、右腕は赤犬によって封じられ、髪も乱れてタンクトップの左肩の紐は千切れている。まさにベッキーはボロボロ状態だ。

「あららら…いい格好になっちまってまァ…」
「ハァ……ハァ」
「ここまでしぶとい女の子いるもんだねェ〜…さすがは白ひげの娘」
「……父親と同じ!!『怪物』じゃけんのう…」
「ハァっ…ハァ…」

それでも三大将相手に立ち向かっていく姿はとても海賊とは思えない。戦場の天使。そんな時、センゴクが叫んだ。

「やれ!」
「はっ」
「!!」
「!!!エース!!!」

エースの処刑が始まるのだ。ルフィとベッキーが処刑台を焦って見た。

「「エース〜〜〜〜〜!!!」」

二人が力の限り叫んだ次の瞬間。







「!!?」




処刑人二人が何者かの攻撃で倒されたのだ。

「誰だ!!」
「貴様…………!!“白ひげ”に旧怨あるお前は我らに都合よしと思っていたが!!クロコダイル!!!」

その正体はクロコダイルだった。なぜクロコダイルが邪魔をしたのか…ルフィは驚く。

「え!!?あいつ!!!」
「あんな瀕死のジジイ後で消すさ――その前にお前らの喜ぶ顔が見たくねェんだよ!!!」

かつて王下七武海だった男。今では政府の敵だ。すると、いきなりクロコダイルの首が飛んだ。

「!!!」
「え!!?」

だが彼はスナスナの実の砂人間。首を飛ばされようが死にはしない。そして、クロコダイルに攻撃したのはドフラミンゴだった。

「オイオイワニ野郎…!!てめェおれをフッて“白ひげ”と組むのかァ!?嫉妬しちまうじゃねェかよ…フッフッフッフッ!!」
「………おれは誰とも組みはしねェよ…」

同時にクロコダイルとドフラミンゴが激突する。













「きゃあっ!!」
「!!!ベッキー!?」

ルフィのそばにベッキーが飛ばされてくる。それは青雉によるものだった。ルフィがベッキーに駆け寄ろうとすると、青雉の氷の槍がルフィに刺さる。

「お前のじいさんは恩人だが…男一匹選んだ死の道」
「痛ェ!!!畜生!!!」
「ハァ、ハァ…ルフィ!」

ベッキーは立ち上がる事も出来ずにルフィを見る。そのルフィの緊急事態にハンコックが走る。

「おのれ!!!ルフィに手出しは……!!」





その瞬間。青雉の氷の槍を破壊してマルコが蹴りを放った。青雉は壁へ吹っ飛ばされる。

「!!!」
「ああ…!!大将!!」
「あれは…!!」

ざわつく海兵達。

「1番隊隊長!!マルコ!!!」

マルコが壁を抜けたことで海兵達にざわめきを覚える。ルフィはマルコに礼を言った。

「ハァ、ハァ…すまねェ、助かった!」
「いいてことよい。…!!ベッキー!!」

ルフィを見た後、すぐにそばで倒れているベッキーに駆け寄るマルコ。

「ベッキー!!!しっかりしろい!!!」
「ハァ、…くっ………マルコ…」
「お前、右腕を!!くそっ、なんてケガだ…!!お前、一人で三大将とやりあったのか!?」
「マルコ……っ、エースが…エースがもう近くに…ここまで…来れた…やるしかないの…!!!」

泣きながらマルコの服を掴み、訴えるベッキー。

「……ベッキー…!!」

悔しげな顔をするマルコは、兄貴分として、仲間として…ベッキーを見つめる。

「4人の侵入を許した!!!」
「能力者は包囲壁を超えて来るぞ!!!」
「元帥殿!!湾内の海賊達が妙な動きを!!!」
「!?」

ルフィ達に触発されて海賊達は包囲壁を超える唯一の道であるオーズに向かって渡り始めた。

「オーズに向かって海を渡れェ〜〜〜!!!」
「何が何でも広場へ上がるんだ!!!」
「!!?」
「海賊達がヤケになった!!包囲壁の穴を守れ!!!」
「船も足場を失い逆上したか!!バカな海賊共め!!!」
「格好の標的だ撃てェ!!!」

包囲壁の砲口が湾内の海賊達を狙った時……






「ん?」








「!!?」
「え!!!?」
「しがみつけェ〜〜〜!!!」
「全員船に乗り込めェ!!!!」

突如、湾内に現れた黒い鯨の船。外見はモビーディック号によく似ている。

「まさか!!」
「船が!!!」
「コーティング船がもう一隻現れました!!!」
「しまった!!!」
「ずっと海底に潜んでいたんだ!!!」

突如現れた船に海兵達が焦りを見せる。

「……!!何…!!?」
「ウチの船が出揃ったと言った憶えはねェぞ…!!!」
「“外輪船<パドルシップ>”です!!!突っ込んできます!!!」
「撃ち沈めろ!!!モビーディックのように!!!」

砲口がすべて外輪船に向く。だが、センゴクはそこでようやく気付く。

「違う!!!船じゃない!!!オーズを撃てェ!!!」
「え!?」
「もう遅い!!!」

白ひげが言い放つ。そしてオーズが外輪船に手をかけて…

「行くどみんな!!!


ウオオオオオオオ〜〜〜!!!!」
「!!?」
「うわああああ〜〜〜〜!!!」
「…………!!!」
「船を引き上げやがったァ〜〜〜〜〜っ!!!!」

オーズは外輪船をオリス広場に引き上げたのだ。これで海賊達が広場に入り込めた。

「包囲壁内へ侵入を許しましたァ!!!」
「……!!!やられたなわずかなネズミの穴一つ!!抜け目なく狙ってきおった!!!包囲壁はわしらの生涯になりかねんぞ!!」

ガープが険しい顔をして呟く。

「広場に入ったぞォ〜〜〜〜!!!」
「エースを救え〜〜〜っ!!!海軍本部を攻め落とせェ〜〜〜〜!!!」

再び海賊達の意気が上がる。エースは叫んだ。

「オヤジ!!!」
「白ひげェ…!!!」
「まだ首はあるか!?エース!!」

途端に海兵達の砲撃がオーズに直撃する。

「!!?」
「オーズ!!!」
「ア…アァ…」
「……………!!」
「オーズ!!!」

右肩を押さえてベッキーが叫んだ。オーズは薄れゆく意識の中、エースとベッキーを見つめた。

「…エースぐん…を必ズ…」

そのままオーズが倒れる。

「…………!!」
「オーズ…!!!」

悲しんでいる暇はない。歩き出した白ひげは薙刀に震動を込めた。

「“白ひげ”が広場に降りたァ〜〜〜〜!!!」
「下がってろよ息子達……!!



ウェアアアアア!!!」

凄まじい衝撃波。海兵達が一気に吹き飛ぶ。これが白ひげの力…。






「野郎共ォ!!!エースを救い出し!!!



海軍を滅ぼせェエェェ!!!」


その一言で海賊達の闘志が再び燃え盛る。マルコもベッキーに肩を貸しながらそれを見つめた。

「…………ガープ…」

処刑台ではセンゴクがガープに言っていた。

「………ああ」










「――こりゃあおれ達も……



タダじゃあ済まんぞ………!!」




最強の死闘 王女VS三大将





■あとがき
ある意味この長編で最も過激かつ盛り上がるべき話でした(笑)。
三大将とベッキーの戦いはこの長編開始時からずっと考えていたネタなのでようやく書けましたー。
敵わない相手なのにエースのために身体をキズだらけにしてまで戦うっていうベッキーを書きたくて(笑)
現在、三大将の攻撃で上着もなくなっちゃったし、タンクトップも肩紐千切れちゃったりして露出が多くなってます。


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