色魔の誘い





その日は雪男が任務で出かけており、クロもふらりとどこかへ散歩をしに行った夜だった。燐は雪男に置いて行かれた課題を始末するためにひとりで祓魔塾に居残りをしていた。

「くそ〜雪男のやつ…なんで俺にだけこんな…」

実際には授業内で燐だけが終わらなかったものである。出かける間際に雪男は「やっておかなかったら明日からもっと授業がつらくなるからね」とメガネを光らせて脅していたため、燐はやらざるを得ない。

「はあー…俺…まじで祓魔師になれんのかな…」
「燐のがんばり次第ね」
「!」

突然、ひとりの教室内に響いた自分以外の声に燐はびくりとして顔を上げた。するとそこには制服姿の色子が立っていた。

「(いつのまに…?足音とかしなかったし…)ああ、色子…お前も居残りか?」
「そうね、そんなものよ」
「俺は雪男に宿題出されちまって…そうだ色子、お前教えてくんねぇか!?」
「………いいわよ」
「よかった!じゃあこのもんだ、い……っ?」

燐の言葉が途切れたのは色子がいきなり顔を近づけてきて、体を密着させてきたからだ。

「燐……」
「な…色子…!?お前何やって、……っ!?」

突然の事態に慌てふためく燐だが、いきなりの感覚にびくりとした。色子は燐のネクタイを緩め、そのシャツに手をかけ始めたのだ。いつも笑顔で明るい色子のイメージとは全く違う彼女の行動。そしてハッとした。このままシャツを脱がされれば上半身に巻いて隠してある悪魔の象徴の尻尾がばれてしまう。

「色子!!やめろ!何やってんだよっ!」
「……サタンの子」
「な…」

ぽつりと呟いた色子の言葉に燐は動きを止めてしまった。

「…悪魔の神、サタンの落胤。それが燐…」
「………色子!?」
「もう私そろそろ抑えがきかないの。何日も“食べて”ないからおなかすいちゃった………」

そう言うと色子は自らのスカートの下からするり、と尻尾を露にしたのだ。それは彼女が悪魔であるという証拠。

「!?お前………悪魔、か……!?」
「私の本当の名前はサキュバス。男の精気と欲望を食べる色魔なの」

えへ、と可愛らしく笑う色子だがその正体は悪魔。燐にとって今まで仲良くしてきた友人であったはずなのに。驚きのあまり呆然とするしかなかった。だがその間にも色子は燐のシャツのボタンを外していく。

「メフィストに言われて物質界へ来たんだけどあなたに会えてほんとによかった♪燐ってすごく美味しそうだからすぐにでも食べちゃいたかったの。ずっと我慢してたんだから」
「な、おいやめろっ…!お前、俺をずっと監視してたのかっ!?」
「それもあるけど…燐を『男』にするためよ」
「男って…」
「あなたが祓魔師になろうが、悪魔に成り下がろうが別にかまわないけど…どちらにせよあなたを一人前にしてあげることが私の役目。そのためにはまず、女を知ることよ」

色子は燐のシャツの隙間から手を滑り込ませ、体に巻いてある尻尾に触れた。途端に燐がびくりと反応した。

「!!」
「ふふ、尻尾気持ちいいでしょ?尻尾は私たち悪魔の弱点…でもそれは用途を変えれば…」

言い終わらないうちに色子は燐をデスクに押し倒し、その耳元で囁いた。




「…快楽を引き出してくれるものになる……」
「……色子……っ!!」

今まで修道院で育ち、女性とあまり関わらずに過ごしてきた十五年間。そんな燐にとって今のこの状況は焦りと戸惑いばかりだ。しかも相手は友人だと思っていた女の子。

(けど……なんだ……っ、色子が…こんなに色っぽく見えるなんて…)

自分を見下ろすピンク色の長髪の揺れ動く様も、ほんのりと頬を染めて自分を見つめる表情も、スカートから見える艶かしい体もいつもの色子ではないように見えた。

「お、俺を…どうする気だ…っ」
「……大丈夫、怖がらないで?…燐を傷つけたりなんて…絶対しない…」
「…?」

思い切り顔が近付き、色子が燐に囁く。だがその一瞬だけ、なぜか切なそうな、そして悲しみを帯びたような声。燐はそのわずかな異変に気づいたがすぐに思考が停止する。




色子にキスをされていたからだ。

「ん…っ、色子……、っ!?」

深くなるキス。燐にとっては初めてのキスである。どんどん深くなっていくキスに燐は呼吸の仕方がわからず、色子に無意識にしがみついてしまう。だがそれは色子をさらに煽るしかない。

「ん、っは………燐、可愛い…ねだってるの?」
「違…っ」
「私…ずっと燐に会いたかった……燐にいつ会えるのか…ずっと待ってた…」
「な、んで…っ俺にそんな…」
「……ナイショ」

人差し指を唇にあてて、色子は呟いた。燐は顔を真っ赤にして色子と距離をとろうとするが首に回された色子の手がそれを許さない。頬を掴まれ、再び近距離になった。

「色子っ、俺こういうの…!お前は俺の友達で…!」
「でも私は色魔なの。男を食べないと生きていけない。…でも勘違いしないで?燐は“特別”なの。ただの“ごはん”なんかじゃない………特別な子…」

その瞬間だった。いきなり燐の脳裏に一瞬だけある映像が映った。見慣れた修道院、見慣れた常服、見慣れた眼鏡……そして『彼』の隣にはピンクの長髪が揺れて………






だが色子に頬をいきなり舐められ、びくりと意識を戻される。

「燐……あなたを愛してる。あなたと出会うずっとずっと前から…」




色魔の誘い

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