我慢の限界





…どうして獅郎は祓魔師なの?

…そうだなぁ、人のためってやつさ













祓魔塾の授業は厳しい。色子は相変わらず燐を監視しながら生活をしていた。

「出でよ、キッス!」
「チュゥ!」

印章術、つまり使い魔を出すことは色子にとっては雑作も無いこと。一応、下級とはいえ悪魔である色子にも小さな使い魔は存在する。それを呼び出すだけのこと。祓魔師の中では「手騎士〈テイマー〉」と呼ぶらしい。色子が呼びかければ魍魎(コールタール)のようなサイズでハートの尻尾を持った悪魔が出てきた。可愛らしい鳴き声と共に姿を現した使い魔。

「わあああああ」
「ホンマすごいわ色子ちゃん!」
「あれ、小魔(ミニデビ)やないですか、珍しいな〜。魍魎と同じ最下級の悪魔ですけど群れになると結構厄介な悪魔やな」

しえみや廉造が目を輝かせ、子猫丸が感心する。祓魔師の中でも悪魔を従わせる能力を持った手騎士は数少ないらしい。

「俺はやっぱダメだわ…これって天性のセンスだっていうからな」
「でも燐にはクロがいるでしょ?」
「あれはー…なんつーか…」

色子はあの日から燐とよく会話をするようになった。燐は最初色子に妙な感覚を感じていたが気のせいだと感じ直したらしい。元々、人懐っこい性格の燐はすぐに色子と打ち解けた。色子にとってはいい兆候だ。

(あと一週間もしないうちに落としてやるわよ)

男の扱いに手慣れている色子。男を知らない燐なんて簡単に落としてやれる。そうタカをくくっていたのだが…













「お、美味しい」
「だろー!?新作デミグラスハンバーグ!」
「ほんと兄さんの唯一の特技です」

昼食時、燐が色子に振る舞ったのは超家庭的料理。基本的には『男』が主食な色子だが、一応人間の食事は口に出来る。そして燐の手料理を食べた色子はぽかんとしていた。

「意外な趣味…」
「そうでしょう、誰だって兄さんが料理上手なんて思いません」
「雪男、失礼だろ!俺に!」





さらに翌日。

「ほら、今度は絶品中華三昧!!」
「もうお弁当の域を越えてるわよ」




さらにさらに翌日。

「デザート付き!極上生プリン!」
「…どっかの高級レストラン?」










………



「全っ然落とせない!!!っていうか毎日毎日すごすぎるって!!」

三日目の夜、物質界での居候であるメフィストのヨハン・ファウスト邸にて色子は叫んだ。彼は一度懐くと信頼を寄せるらしい。毎日毎日手料理を味わわせてくれるのはいいがなかなかそういったムードにならない。一応ムードは大切にする方なのだが、相手があんな調子ではうまくいかない。

「彼は今まで修道院で育ったため、そういった生活は無縁でしたからね」
「うう…」

話を聞く限りでは修道院には男しかおらず、たまに藤本獅郎が持ってきた成人向け雑誌をこっそり盗み見ていたらしいが、それ以外では女性と接する機会はあまり無かったようだ。

「逆に知らなさすぎて強敵だわ…」
「さすがの貴女でも無理ですか★」
「馬鹿言わないで、なんのためにサタンを納得させて物質界に来たと思ってんのよ!…絶対落としてやるわよ」
「…貴女がそこまで本気になってくれるとは意外でした」
「どういう意味?」
「きっと貴女は面倒くさいとかなんとか言ってすぐに飽きて帰ってしまうと思ったのですよ」

制服を着替え、赤いワンピースに着替えた色子は椅子に座り、含み笑いをするメフィストを怪訝そうに見つめた。

「それが…『絶対落としてやる』なんて、貴女らしくない。…彼が、藤本獅郎の遺した子だからですか」
「…………」

藤本獅郎の名が出た途端、色子は腕を組んで険しい顔をした。彼女と獅郎の間にはある秘密があった…。

「………ほんとにアンタって悪魔ね」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
「………アンタこそ奥村燐を私に誘惑させておいて何を考えてるの?」
「……言ってしまったら面白くないでしょう?」

何を考えているのかわからないのはお互い様だ。色子は尻尾をひらひらと揺れさせながらつぶやいた。




「そろそろ本気出さなくちゃ………私も我慢の限界…」




我慢の限界

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