旅立ちの時





「貴女を人間にしてさしあげましょう」
「…それ、どういうこと…?」

突然メフィストから言われた言葉。それは禁忌とされる、悪魔を人間に変える魔術だ。

「そ、そんなことできんのか…?」
「私を誰だと思ってるんです?……ずっと迷っていましたが…ようやく決意しました。……貴女のために、私ができることは…それしかないのだと」
「メフィスト…!」

燐も色子もメフィストをずっと見つめるしかなかった。メフィストの表情が笑みはあるものの、いつもと違って悲しげな表情をしていたから……

「……貴女は今のままでは、愛する人を一人に決められない。…ならば、貴女を人間にして…貴女が一人の男を愛することができるように…」
「………」

あまりにも突然で色子は答えることができなかった。いや、どう答えればいいのかわからないのだ。自分が愛している人……それは……?

「……そんな、の……いきなり言われても…」
「でもお前は望んでいたはずだろう?」
「!インキュバス!?」

顔を上げるとメフィストの後ろにはいつのまにか尹佑がいた。そして、人間になった時の彼のことを思った。

(そうだ…私…人間になったら…インキュバスとは何の繋がりもなくなる…!)
「っ、インキュバス…私…」
「……わかっているよ。お前が人間になれば、共体の繋がりは無くなる。……俺達は赤の他人だよ」
「……!」

今まで、何百年もずっと共に合った、魂のつながり。それは二人にとってあって当たり前のものだった。それが突然消えたら…どうなるのか、よくわからない。それでも………

「………っごめん…ごめんね……インキュバス……私…」
「……絆が切れても、……俺はお前の兄貴でいていいかな?」
「…………っうん……!」

知らず知らずに涙が溢れてきて、そんな色子の肩を燐が抱いた。

「色子……」
「……っ………メフィスト……どうやったら……人間になれるの…?」
「……簡単です。私が貴女に術をかけ、悪魔の魔力を封印しますから。…貴女はただじっとしているだけで構いませんよ」
「………人間に、なったら………誰を選ぶか…決める」
「!」

その色子の言葉にメフィストと燐がわずかに反応した。彼女が恋する人…獅郎亡き今、それは燐とメフィストだ。

「……俺は、色子が決めたことなら…」
「…私もです。貴女が一番望む人といればいい………」
「……………ありがとう…ありがとうね……ふたりとも…」

こんなにも愛してくれる人達に囲まれている。色子は幸せでたまらなかった。そして……その中で色子が選ぶのは…

「…………うん……決めた………………」
「……では、誓いの言葉を」
「……メフィスト




私を、人間にして」

もう迷わない。色子の目は決意に満ちていた。その顔は、燐やメフィスト、そして獅郎が愛した、強い意志の眼差し。

「………よろしい。




アインス☆ツヴァイ☆……ドライ☆」


旅立ちの時





あなたは誰を選びますか?

奥村燐→燐END
メフィスト・フェレス→メフィストEND






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