この世の終わりまで






「……………………メフィスト」
「いやあ、サキュバス、実に萌えます☆」

あれから一ヶ月後の正十字学園の敷地内。メフィストによって色子は彼の大好きなアニメ作品『美少女騎士ラブリーナイツ』のコスプレをさせられている。道行く学生達の目が痛い。メフィストは何故か誇らしげに彼女の肩を抱いて歩いている。

「ちょ…ほんとこれやめてくれない」
「本当に貴女はこういう服が似合いますねぇ〜可愛いですよ、サキュバス」

あの日、色子はメフィストを選んだ。長いこと…本当に数百年、想ってくれていた人。そして自分もいつしかメフィストを必要としていたことに………。

「ね、ねえメフィスト……」
「はい?なんでしょう色子っ?」
「……あの、さ」

目が痛い。とにかくまわりの目が痛い。そこをとにかく理解してほしい。

(わかってたわよ…わかってた、メフィストが結局オタクなのもね…こういうの好きだってのもね…)

物質界に来てからメフィストが二次元媒体に異常な興味を示しているのを見て来たが、恋人になった途端自分にまでこういうのを強要してくるとは…。

「……貴女にこういう格好をさせるのが夢でした」
「え?夢って…大げさね」
「大げさなんかじゃありませんよ。…私は貴女をずっと自分のものにしたいと思っていました。自分だけの……自分の思い通りになるような。そしてようやく…貴女は私のものになった」
「!」

いきなり抱き寄せられて耳元で囁かれる。それだけで顔を真っ赤にし、色子は思わずメフィストの白いマントに縋り付く。

「おやおや?サキュバスはそんなにも甘えたでしたかな?」
「う、うるさいな」
「おっと、もうこんな時間ですか……この後はディナーでもいかがです?お嬢さん」
「でぃなー…」

今まで、悪魔だった頃の色子にとっての食事といえば男だった。だが人間になった今、生活ががらりと変わる。もちろん、食事もだ。今までは人間の食事は色子にとってデザートに過ぎなかったが、それが主食となった。しかし、メフィストとの夜の交わりの回数は減らない。色子の肉体はもう毎晩のように男を漁らなくても生きていける体質になったが、メフィストがそれを許さないのだ。彼の底なしの独占欲と性欲は以前とは比べ物にならない。色子と交際してから前のが嘘のように色子にベタベタ触り、独占欲をまき散らす。これが彼の本心だったのだろう。

「私は貴女を求めていたのです…ずっと貴女を………」
「……う、恥ずかしいこと言わないでよ」
「…ふふ、可愛いんですから仕方ないでしょう」

クスクスと笑うメフィスト。そして二人は一緒にメフィストのヨハン・ファウスト邸へと戻って行った。










「どうぞお召し上がりください☆貴女のために用意したフルコースです」
「相変わらずセレブね…ほんと…」

テーブルいっぱいに並べられた豪華料理に顔を引きつらせる色子。本当に交際し始めてからメフィストの態度はころっと変わった。若干過保護気味である。先程のコスプレと変わって今の色子の服も最上級シルクのワンピース型ルームウェア。しなやかなシルクが色子の体のラインを浮き出させている。

「本心を隠さないって良いことですね☆」
「あなたの場合、ギャップが強すぎるのよ」
「………」
「なによ?」

こちらを満足げに眺めてくるメフィスト。その笑顔はとても嬉しそうだった。

「いえ、貴女は人間になってからずっときれいになりましたね」
「え」

思ってもみなかったことを言われてどきりとする色子。

「現在…貴女の悪魔としての力は封じましたが……父上が知れば……ことが大きくなりそうです」
「……」

そう、どんなに忘れようとしても忘れられない存在、サタン。彼は独占欲が強い。色子が人間になったと知ればただじゃ済まないだろう。

「…大丈夫なの……」
「……私は、自分で言うのもなんですが口が上手い。貴女を人間にした理由ならいくらでも説明はつきますよ」
「…」

正直言って色子ですらメフィストが何を考えているのか完全にはわからない。

(…きっと、メフィストは私にも…誰にも言えない、何らかの策を練っている……)

そもそも彼が正十字騎士團にいることすら謎の目的なのだ。だがそれを自分が知るのはもっと先の気がする。するとメフィストが色子の隣に立ち、彼女を席から立たせた。

「?メフィスト?」
「……こちらへどうぞ、色子」

恭しくメフィストは色子の手を取るとソファーへと誘導した。メフィストは微笑みながら色子の頬を撫でる。

「……藤本君が生きていたら…貴女は私ではなく彼を選んでいましたか?」
「えっ」

驚くように色子はメフィストを見た。

「……どうしてそう思う?」
「だって貴女が本当に愛していたのは……彼なんですから」
「…………確かに、そうかもしれない………でも…獅郎はもういない………私は自分の道を歩いてもいいよね…?」
「……その貴女の選んだ道に……私がいてくれて…本当に嬉しいですよ……」

ぎゅうっと抱きしめられ、色子はメフィストの白いマントに顔を埋めた。こんなに嬉しそうなメフィストを見るのは珍しい。

「……愛してる……サキュバス」
「……私も…」

唇を重ねると、実感が湧いてくる。自分はようやく人間になれたのだ。ずっと一緒にいられる……。

「……あ、メフィスト…私、人間になったらメフィストより遥かに死ぬのよね」
「ああ、そこの点は大丈夫です。貴女がいずれ人間としての寿命を終えたら…私は貴女の魂を頂きます」
「え?」
「人間の魂を頂くのは我らの十八番。そして私は貴女の魂を頂き…別の肉体に移します。そうして…貴女には何年も…私の側にいていただきますからね」
「あなたらしいっちゃあなたらしいわね…ほんとすごい独占欲…」
「当たり前です。やっと手に入れたんですから……この世が終わるその瞬間まで……一緒にいてください」

手を絡めて

そっとキスをしながら





悪魔としても、人間としても




この世の愛の終わりまで愛そう



この世の終わりまで




■あとがき
長編一応終了となりました。ラストは燐とメフィストの選択式となりましたがいかがでしょうか?現在、メフィスト寄りのサタン絡みとなる色子の虚無界時代の物語(獅郎と出会う前の数百年間)を第二部として構想中でございます。藤本神父との物語は結構悲しい感じに仕上げたかったのですが(笑)燐とはピュアな青春系、メフィストとは長い間秘め続けていた想いを大事にしていきたかったのです。きっとどんな結末でも藤本神父は色子を見守っていてくれますね。


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