私の気持ち





色子はひたすら走り続けていた。自分の気持ちをただ頭の中で整理しようと必死だった。

(私が…心に想っている人は………一体…誰なのか…)

今まで獅郎だけが心に留めている男だったはずなのに、それを乱す男達。色子のそばにいて、愛してくれる人。悪魔である自分のことを想ってくれる人…。

「……っ」

ただひたすらに走って、走って。色子はあの人に会うために…。
















「燐…!」
「………色子?」

燐は寮の屋上にいて、驚いた顔で色子を見ていた。色子は息を荒げて肩で息をする。

「はぁ、はぁ…よかった…ここに、いて」
「………もしかして俺を捜してたのか?」
「……燐に、会いたかったから」
「!」

その言葉に燐は顔を真っ赤にする。こんなに走ってまで自分に会いに来てくれた。それだけで嬉しい。

「………あの、さ………色子…」
「……燐、聞いてほしいことがあるの」

燐が話そうとしたのを遮って色子は言葉を紡いだ。

「………燐、………私はあなたを愛しているの」
「!し、知ってるよ…」
「ううん違うの…今まで言っていたようなものじゃない……私…

本当にあなたが好きなの」
「………え、好き、って………」
「……愛してる……」

今まで幾度となく愛を口にしてきたが、それは親の愛情にも似たものだった。だが今想っているのは別の感情。

「…私、ようやく気付いたの……もう……ごまかしたりしないわ。……あなたをずっとそばで見ているうちに…次第に…あなたを本当に好きになっていた……」

愛した人、獅郎が命がけで守った息子として見て来た目はやがて男性を見るものに変わっていった。だが、色子が愛した人…藤本獅郎が死んだことで彼女は恋におびえていたのかもしれない。もう二度と大切な人を失いたくなかったから…。

「…色子…色子、俺も…俺もお前が好きだ……っ、俺…今まで…誰かを本気で好きになったことなんて…一度も…ないけど……でも……俺は本気で…お前を守りたいんだ…っ」

切なげに燐は色子の目を見つめ、手を握った。その温もりを感じ、色子は悲しげに微笑む。

「…燐…」
「……俺は色子に比べたら…まだまだガキだけど…っ一人で抱え込まないで…俺にも頼ってくれ……」
「…………燐、あのね……」

今にも泣きそうな燐の顔を見て色子は切り出した。

「………私は…他にも好きな人がいるの………」
「………えっ?」
「…メフィスト・フェレス」

意外な人物の名に燐は目を見開く。確かに、色子を連れて来たのはメフィストだとは聞いていた。だがまさか、二人がそんな関係だったとは思いもよらなかった。今まで見る限り、昔からの知り合いでそれなりに仲が良いとは思っていたがメフィストは今まで彼女に愛情表現もしなかったし、いつもからかっているように見えた。

「…メフィストが…?」
「……あの人は……昔から私の側にいて、よくちょっかいを出してきた…でもそれは……私を愛してくれていたからなんだって……この前知らされた」
「…言ったのか、アイツが?」
「……ええ、そうして気付いた…メフィストへの気持ちも…燐への気持ちも………そして…獅郎のことだって忘れられない。……


私は…三人の男を愛しているの」

苦しい運命に立ち向かう幼いくらいに真っ直ぐな少年。生まれて初めて愛し愛された今は亡き神父。遥か昔からずっと本心を隠して愛してくれていた悪友。

「……私……ズルい……私は…悪魔で、こんなにも汚れきった卑しい女なのに、こんな……こんなに想われているのを…ただ一人に決めることもできない」

いつの間にか色子は涙を流していて、自分に言うように言葉を口にしていく。

「この体は……インキュバスと分け合ったこの肉体は…一人の男じゃ満足できない……一人の男に留まれない私は…一人を愛せない……っそんなんじゃ…誰かを愛することなんて…できない…っ」

色魔は男を骨抜きにする魅力と、変身能力を固有としている。だがその代わり、甘美なるその肉体は一人の男に固執できない。最高でも一人の男で満足できるのは一ヶ月。つまり、誰か一人の男性と相思相愛になっても必ず他の男と関係を持たなくてはならない。獅郎といた頃は、一ヶ月に一回はサタンのもとに戻っていた。だがその時点で色子は罪悪感を抱いていたのだから…。

「だから私は…誰かを愛しちゃいけない…!他の男と関係を持つなんて、嫌われる…!私が悪魔である限り……私の体はサタンのもの…自由になんて、なれないの…!!」
「……色子っ」

燐は色子の手を引き寄せて強く抱きしめた。彼女を慰めるため、そして彼女の悲しさを全て抱え込んでしまいたかったから。苦しんでいるのは自分だけじゃない。彼女もまた、人を愛することができなくて苦しんでいる。

「……っ俺はかまわないんだ。色子が…生きていくために必要なら…!他の男と…メフィストとそういう関係になったって…!だから…俺……」
「…燐…っ」

そっと燐の背中に手を回す色子。ふたりは自然と抱き合う形になっていた。

「……っお願い、しばらくこうさせて………」
「……ああっ…」

自らの悪魔という現実に立ち向かわなくてはならない二人……愛したいのに、愛せない苦しみ。まるで藤本獅郎が見ているかのように、二人を包む夕焼けは温かかった。





「………やはり、そうなりましたか」
「!」
「え…メフィスト…!?」

静寂に包まれていた空間に響いた声に思わず燐と色子は体を話す。赤い夕日を浴びて、メフィストは銅像の上に座りながら太陽を見つめていた。

「……夕日は美しいですね。まるで貴女のようだ、サキュバス」
「……メフィスト…見てたの…?」
「…ええ。……私は、いずれこうなることも予測していた…そのはずなのに…貴女をこちらに呼び寄せ、奥村君に宛てがいました。…それは、きっと藤本君の息子の奥村君に靡かないでいてほしいという私の願望に過ぎなかった」

しゅたっと地に降りるとメフィストは色子を見つめ、言った。

「…貴女の気持ちを知っておきながら私は……ひどいことをした」
「……どういう意味……?」
「…藤本君がいない今…貴女が頼れるのは私だけだと……証明したかった…」

傷心の彼女が自分を愛してくれるのではないかという気持ち。メフィストは帽子を深く被り直した。

「……申し訳ありませんでした、サキュバス……」
「…っ違う…私のせいよ…私は……あなたの気持ちも…知らなかっただけ……燐のことも…」
「………色子」

燐が涙を浮かべる色子を申し訳なさそうに見つめる。するとメフィストは言った。

「………ようやく決意がつきました。……では、私が貴女に贈る最後のプレゼントを差し上げましょう……」
「…え」

唐突に話が変わった気がして燐と色子はメフィストを見上げた。彼はいつもの笑顔…そしてわずかに悲しみを宿した顔で笑った。

「サキュバス、貴女を人間にしてさしあげましょう」
「……え!?」
「…な、何言ってんだよメフィスト…!?」


私の気持ち




■あとがき
そろそろ終わりに近付いて参りました!そして迷った挙げ句、最終回は選択式にすることにしました。燐落ちかメフィスト落ちかで迷ったので…(笑)
どちらでもいけるようにしてみます!恋シュミ化してきたなー…?


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