想う少年





よく晴れた朝。俺は色子と寮の前で待ち合わせしていた。すると走ってくる色子が見えた。

「燐ー、おはよー」
「お、おおっ」

くそ…今日も可愛いな。メフィストのところで居候をしている色子の身の回りのものはみんなメフィストが用意しているらしい。今日も白とピンクのブラウスとスカート、タイツ姿といった明らかにメフィストカラーでやって来た色子。ちょっと気に食わないが…やっぱり可愛い…。

「待った?」
「いや、俺も今下りて来たところだからよ……」
「ふふっ、寝癖ついてるわよ?」

色子は俺にとって……なんなんだろ?色子は突然俺の前に現れた色魔。男を食べる悪魔で、俺と雪男を守るために来たらしい。で…俺のハジメテを奪った女…でもある。今では一週間に一回くらい、その、アレだ………ヤってる。今まで女と縁のなかった俺にとって色子の行動は過激で…。でも俺と色子は別に付き合っているわけでもない。…それなのにこういう関係って…どうなんだ?…だけど不思議と嫌じゃない。

「で、画材買うんだっけ?メフィストからいくつか店を聞いて来たからそこ回りましょう」
「お、おおっ…」

今回の買い物だって別に色子を誘う理由なんてなかった。だけど俺は色子に声をかけた。……それって…どういうことなんだ?とにかく、俺は色子と共に正十字学園町の中心街へと歩き出した。






長いピンク色の髪が歩く度に揺れて思わず見つめてしまう。これが…ジジイが愛した悪魔………外見はジジイの理想の姿。…確かに胸でけえし…シュラに負けず劣らず…か?性格は…なんだろ、面倒見がいいっていうの?姉貴がいたらこんな感じかな、っていう。シュラとは違うからな。優しいお姉さん、っていう感じだ。塾の奴らに対しては猫かぶっているらしく、勝呂達なんか「竜士君」とか、しえみなんかには「しえみちゃん」とか呼んでる。悪魔だということをバレさせないために「普通の女の子」を演じているって言っていた。そしてメフィストと本間に対しては思いっきりキャラが変わる。どうやらメフィストとは昔からの知り合いらしくて悪友であり天敵だそうだ。本間は色子の兄貴みたいなもので、昔多大なる迷惑を被ったらしい。でもなんだかんだ色子は二人と仲が良さそうだ。

「わ、燐見て見て、可愛いね〜」

ペットショップの前を通りがかって可愛い子犬を見て微笑む色子。その姿はどう見ても人間の女の子だった。

(…こんな姿にジジイは惚れたのか)
「燐?」
「あっいや別に…」
「意外だと思ってるでしょ」
「え」

心読まれた!?色子は寂しそうに笑いながらこちらを見て来た。

「悪魔なのに動物好きなんて」
「い、いや別に…ただ、ちょっとびっくり、したけど」
「私ね、昔から悪魔らしくないって言われるの」

そう言いながら色子は再び俺と並んで歩き出す。その横顔を見ながら俺はふと本間から言われた言葉を思い出した。

――虚無界では女の悪魔は男よりも少ないんです。故にいいように弄ばれることが多かったようで。

そうだ…色子は女の悪魔だからって、平気でそういうことをされてきたんだ……。いくら食事が男の色魔だからって、そんなことされて平気でいられるはずがねえんだ…。色子は人間に近い。だからこそ、きっと傷ついたはずなのに…。俺はなぜか無性に苛立っていた。色子にもうそんな思いをさせたくないと心から願ったんだ。

「……色子は、さ、辛くなかったのか?」
「ん?」
「……今まで辛いと思ったことはないのか?…そういう暮らしをしてきて…!」
「……燐は優しいね……ほんとに」

くすくすと笑う色子。でもどこか、やっぱり悲しげで。俺には一体何ができるんだ?色子にとっては過去のことかもしれない。だけどもしまた同じようなことが起きたら…俺は色子を守れるのか?自分の力で色子を守れるのか?炎も使いこなせないのに…。

「……俺なんて、全然優しくねぇよ………」
「?」

女一人守る自信がねぇんだから……。すると色子がいきなり俺の腕に絡んで来た。

「!?色子っ?」

オイちょっと待て、胸があたる…!つーかすれ違う奴らみんな見てっから!!心臓に悪い!!色子はぽつりと呟くように言った。

「燐、ありがと…」
「…へ?」

思わず間抜けな声が出ちまった。色子はさっきよりいくらか柔らかな顔つきをしててちょっと驚く。

「…色々聞いたんでしょ?私のこと」
「……まあ」
「私はただ欲望のためだけに生きてる卑しい悪魔。メフィストと比べたら私は本当に要らない存在なの。…他の悪魔にとっても、私は道具にすぎなかった。そんな生きているだけの私を救ったのは、サタンだった」

色子の口からサタンの言葉が出て少し俺は体が反応したのを感じた。

「…サタンに見初められてから私は、以前のような苦痛を感じなくなったの。虚無界の神に気に入られて、私は何不自由無く過ごしてた。…だけど、もっと違う何かを欲しかったのかもしれない」
「…違う何か、って?」
「…他人に愛されたい、と」

色子は俺の腕に絡んだまま、俺を見上げて来た。どくん、と心臓が高鳴る。……ああ、やっぱり色子は人間らしい。外見とか、そういうのだけじゃなくって、…この表情は悪魔になんかできやしない。…こんなに優しい顔ができるんだ。

「それを叶えてくれたのは獅郎……。私は獅郎を今でも好きだし、これからもずっと変わらない。………でも、ね」
「…でも?なんだよ…?」
「……でも、私



こうして燐と過ごす時間がすごく好き」

いきなり耳元で声がしたと思ったら色子が俺の頬を撫でながら間近で囁いてきた。俺は驚きのあまり顔を真っ赤にして色子から急いで離れた。そんな様子を色子は嬉しげに笑っている。

「おおおおおおお前いきなりなんだよ!!!」
「ふふ、燐ってなんでそんなにリアクションいいのかしら」
「う、うるせー!!びっくりすんだろーが!!!」

なんてヤツだよ全く…!まだ顔熱いっつーの…!!けどさっきの色子の言葉………あ、あれってどういう好き、なんだ…?べ、別に変な意味じゃねーよなっ…!?へ、変な意味ってなんだよ俺何期待してんだ!!自分の中でぐるぐると回る思考。だけど…ひとつ言えるのは

「あ、ほら燐、画材屋だよ!」
「お、おうっ、さっさと買ってくか!!」

俺は色子を守ってやりてえ。色子が俺達を守るなら、俺も色子を守る。



















「今日はありがとなー、付き合ってもらっちまって」
「ううんいいの。街も見れたし、ふふ」

画材を買った後、他の店もまわったりしていたらすっかり夕方になっちまった。色子と並んで寮への道を歩いていく。

「今日はこのままメフィストのところに戻るわ。また明日、学校でね」
「また猫になるのか?…なんか、結構可愛がられてるよなお前」
「人間は動物好きが多いのよ」

…なんかちょっと複雑。猫になってクラスのアイドル的存在になる色子だけど、クラスの男子にも結構ベタベタ触られてるの見ると………あと、クロが色子を猫叉だと思ってよく目をハートにしてる。…クロも男だからな、一応。

「燐、……あんまり一人で悩まないでね?」
「え?」
「…悩みがあったら相談してね」

色子のことばかり考えていてぼーっとしていた俺を気遣って色子はそう言ってくれる。…言えるかよ!お前のことばっか考えてたなんて!!

「お、おぉ……じゃ、あさ…色子も俺を少しは頼れよな!」
「えっ。………うん、わかった!燐のこと、頼りにしてるわね」

夕暮れの日差しに照らされたピンクの長い髪は本当にきれいで。俺の頬はまた熱くなる。

(……あ、俺そっか




色子のこと、好きなのか)




俺がそのことに気付いたのは、皮肉にも、ジジイと色子の思い出である夕方だった。


想う少年




■あとがき
燐が色子を好きだと気付き始めました。次回あたりからメフィストさんゾーン?


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