01,始まりの鐘
夜の聖十字学園の廊下を歩く一人の少女。腰まで伸びた長いピンクの髪が月明かりに照らされている。すると彼女の前に暗闇に溶け込む人物が映った。
「ようこそ★東雲色子さん。わが聖十字学園へ」
にこ、と笑ったその男メフィスト・フェレス。この学園の理事長であり聖十字騎士団の名誉騎士でもある。メフィストの笑みに少女はハァ、とため息をついた。
「その格好…なんとかならないの?メフィスト」
「なかなかよいと思うのですが。しかしあなたは制服がよくお似合いだ」
色子と呼ばれた少女は聖十字学園の女子生徒の制服を着ている。しかしスカートがいくらか短いような…。
「あなたに長いスカートは似合いませんからね★色魔サキュバス」
「…ふん」
色魔サキュバス。古くより存在する夢の悪魔だ。眠っている人間の男性のもとに現れ、その男性の理想の姿に変身して夢の中に入り込み、体を交わらせる悪魔。どんな理想の女性の姿にも化けるため、その誘いを断ることはほとんどの男ができないといわれる。それが東雲色子こと、彼女の正体。
「私が聞きたいのはどうしてわざわざアンタに呼び出されなきゃいけないの、ってことよ。しかも…アンタの生徒として?祓魔師の…」
「フフフ、あなたにはちょっとした頼み事をしたいのですよ。実は我らの末の弟、つまり父上の息子が我が学園に入学したのです」
「………サタンの子」
「ハイ、しかも人間との子です」
明るく言ったメフィストの言葉に色子は言葉を無くした。
「さすがのあなたも驚きでしょう?父上の愛人だったあなたさえも知らない」
「…………」
メフィストはわざと言葉を尖らせた。そう、色子ことサキュバスはサタンの愛人。愛情なんて無いが、下級悪魔である彼女が唯一サタンの気をひいたのはその美貌と男を惑わす彼女特有の能力なのだ。悪魔の神に気に入られればそれなりの生活が虚無界でもできる。そんな彼女もサタンが人間との間に子を成していたことは知らなかった。
「あなたには彼の見張りを頼みたい」
「どうして私なのよ」
「…藤本が亡くなってからのあなたは最高に見物でしたからね。藤本の残した彼を守っていただけませんかねぇ?いや、むしろあなたが彼を成長させてやってください」
「………その子、名前は?」
「奥村燐。…興味を示していただけましたかね?東雲色子さん」
「…………用はその子を
『男』にしてやればいいわけね」
月明かりを浴びた悪魔の女子高生、色子のスカートからは黒い尻尾が嬉しそうに揺れていた。
始まりの鐘
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