平和な日々





「ねえねえ見て!かわいー」
「珍しい色の毛並みだなー」

次の日、高校の授業を受けていた燐。ぼーっとしていた燐だが、まわりがざわざわと何かについて話していることに気付く。

「んー……?」

昨晩のことで寝不足の燐。クラスの生徒達の視線を追って窓辺を見るなり一気に眠気が吹き飛んだ。

「!!?(あ、ありゃあ……!!!)」
「可愛いねー!!!」

主に女子が歓声をあげている。教師さえも窓辺のそれを見て微笑んで和んでいる。




窓辺には全身ふわふわとした毛並みの愛らしいピンクの猫が寝そべっていたのだ。燐には一瞬でその正体がわかり、唖然としている。

(色子かー!!!)

メフィストの時で動物への変身には慣れている。彼は犬だったが、色子は猫。クロと違って毛が多くてふわっふわな見るからに高級猫。

(つーかそんな高そーなピンクの毛の猫なんていねーよ!!)

色子はしえみ同様高校には通っておらず、祓魔塾にのみ現れる。しかし燐と雪男の保護のため、常に見張っていなければならない…と彼女は言っていたのだが。

(こういう意味か…!)

まわりの生徒達は色子の猫姿にメロメロらしい。さすが色魔、猫になっても人を惹き付けるらしい。…そんな中、一人の男子生徒がクスリと微笑んでいた。










昼食時。

「ったく…!なんでそんな格好で現れるんだよ色子!」
「可愛くない?」
「い、いや結構可愛いけど…っていうか!派手だっつーの!野良猫に見えねぇって!!」

相変わらず猫の色子を連れて屋上へやって来た燐。色子猫はくしくしと毛繕いをするが、その仕草さえ可愛らしい。

「燐のためにせっかく可愛い姿になりたかったのに…」
「うっ…」

しゅんとする色子猫の愛らしさに燐の言葉が詰まる。何か、文句を言えない雰囲気。その時。

[りん!]
「おっ、クロ」

フェンスの上を歩いて来たのはクロだった。燐の使い魔で、かつては獅郎の使い魔だった猫又。色子メフィストからクロが獅郎の使い魔だとは知っていたが見るのは初めて。クロは燐に抱きつこうとしたが、色子猫を見た瞬間停止した。

「あ、ク…」
[……か、かわいい〜!!!]
「え」

どうやらクロは可愛いメス猫である色子に惚れてしまったらしい。クロはぽーっとしながら色子に近付き、くんくんと匂いを嗅ぐ。

「あの、ちょっとクロ」
[なんかなつかしいにおいがする!なまえ、なんていうのっ!?]
「ちょ」

クロは色子の匂いが媚薬のような効果をもたらすことに気付かず、だんだん色子猫に擦り寄り始めた。色子はなんとか自分が色子だと伝えようとする。

[いいにおい…]
「り、燐たすけ「ソイツはメフィストの飼い猫だ」」

ぐいっと燐がクロの首根っこを掴んで色子から引き離す。

[わー!りん、はなせ!]
「ったく、いきなり初対面のヤツに近付かれて匂いなんて嗅がれたらびっくりするだろ!」
[うう、だってかわいいんだもん!]
「ハァ…お前、ジジイに似て来たんじゃねぇか?」

燐は色子を見てにこりと笑った。

(燐、ありがと!)

色子は心の中で燐に感謝。するとその時、いきなり色子が何者かに抱き上げられた。

「いやあ、すいませんね奥村君☆飼い猫がお世話になりました」
「!メフィスト」
「ちょ、なんでアンタが!」

突如として現れたのは白いマントを靡かせたメフィスト。色子猫をひょいっと抱き上げ、ちゃっかり頬擦り。色子はむすっとした表情だ。

「彼女は私の使い魔で、ラピスといいます。普段は外に出さないのですが奥村君に懐いてしまったようで」
[ラピス!かわいいなまえ!]
「仲良くしてあげてくださいね?クロ」
[うん!]

クロの尻尾がぶんぶんと振られていて、色子はクロの前ではラピスとして過ごさなければならないようだ。

「……よ、よろしくねクロ」
「ところで今からラピスは大事な週1のサロンに行かなくてはなりません!これで失敬!」
「え!?オイちょっと待てメフィスト、どういう…!!」

色子を連れてどこかへ行こうとするメフィストを燐が止める。するとメフィストは燐の耳元に囁いた。

「ちょっとした所用で色子さんを預かります。大丈夫、夜にはお返ししますから」
「お返しって…!つーか用事ってなんだよ」
「今後の話し合いです☆」
「……」

メフィストの腕に抱かれたままの色子は二人の会話を黙って聞いていた。メフィストは色子を連れてポン、と煙と共に消え、残されたのは燐とクロだけ。

[りん、りん!ラピスってすっごくかわいいよなっ!!おれあんなけっとしーはじめてみた!]
「…ああ、確かに……可愛いよな…」

色子が現れてからさらに日常がせわしない。だけど嫌な気はしなかった。

(……ジジイと愛し合った悪魔…か)

彼女が自分のために尽くしてくれるのは……







「燐さん?」
「え」

いきなり背後から声をかけられてびくりとする燐。振り返れば、そこには一人の男子生徒。優しげに笑い、こちらを見つめている。その人物には心当たりがあった。

「あれ…お前、本間…?」
「ハイ」

それは燐と同じクラスの本間尹佑という少年だった。雪男に負けず劣らずの学園で女子生徒から多大なる人気を誇る美少年。眉目秀麗なルックスと優しい性格、そして文武両道のまさに王子様的存在。燐は全く会話したことのない相手だった。

「奥村燐さんですよね、会話するのは初めてですかね」
「?何…」
「ずっとあなたとお話がしたかった」

にこりと微笑む尹佑の顔がどこかで見たような気がした。するとクロが反応する。

[りん!こいつ!]
「!?」
「俺の“きょうだい”が…大変お世話になっているようで」
「きょうだい…?」
「ああ、こちらでは東雲色子というんでしたね」
「は……はぁあ?」
















一方、正十字学園地下。正十字騎士団日本支部である。メフィストの腕から抜け出した色子は猫の姿からいつもの人間の娘の姿に変身した。

「はあ、いきなり連れ出すのやめてくれない?」
「貴女もわかってたんでしょう?こうなること」
「遅かれ早かれね」
「ハイ、でも大丈夫です。貴女は私が守ります」

真剣な瞳で言われ、少し色子が怯む。

「…でも、燐は?」
「ああ、大丈夫です。“議会”の間、貴女の代わりに奥村君を見守る役をつけています」
「誰が…?」
「…」

メフィストのうっすらとした笑顔で色子は悟った。誰が代わりなのか。そしてメフィストが巨大な扉を開けるとそこには複数の祓魔師が集まっていた。








「………お前、一体…なんなんだ…!?」

燐が尹佑にたずねる。彼は…人間じゃない。

「……俺の本当の名は、


『淫魔(インキュバス)』。淫美なるものを愛でる悪魔――………。『色魔(サキュバス)』とは…共体(きょうだい)です。



奥村燐さん」

尹佑の不思議な笑みが燐にさらなる予感を与えてやまなかった。屋上に風が吹き、ふたりを包んでいく。

「つまり東雲色子、彼女とは同じ種類の悪魔です」




平和な日々




■あとがき
尹佑くん登場!ずっと出したかった。彼が何者かは次の話で詳しく解説。そして色子、メフィストの謎の会議?編と同時進行。


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