夕焼けに染まるあの人





「…う」

朝の光が窓から差し込んでくる。やはりサキュバスといえど朝の光には弱く、眩しげに目を覚ました。

(私…昨日どうしたんだっけ…?たしか…)
「よぉ、目ぇ覚めたか」
「きゃ!!!」

ぼんやりとしていたサキュバスだがいきなり背後から声をかけられ絶叫。振り返ればそこには…

「あ、し、獅郎」
「お、名前覚えてたのか。ホラ、さっさと起きろよー朝飯だぞ」
「あ、あさめし?」

はっと思い出す。そう、昨晩はこの男と信じられないほど気持ちいい「食事」をしたことを。それなのにこの男、まるで何事もなかったかのように普通の態度。しかも人間達の食事に自分を誘うとは。

「あー、その格好はやべぇな。うち一応修道院だし」
「え」

見れば自分は裸で獅郎の着ていた常服をかけているだけ。元々着ていたほとんど下着姿の服はそこらへんに散乱している。

「あ、待ってろよー確か昔あったものがここに」

突然獅郎はごそごそと押し入れから何かを取り出そうとする。しばらく探していたがようやくお目当てのものが見つかったらしく、彼は手に服を抱えて戻ってきた。

「ほら、これ着とけ一応」
「……修道女〈シスター〉……」

獅郎が渡してきたのは神に仕える女性が纏うもの、シスターの服だった。昔ここにも女性がいたのか?しかし男子修道院のはずでは…。さらに悪魔である自分がこんな聖女に等しい存在の服を着る等…。サキュバスが色々と考えているうちに獅郎はサキュバスの頭をわしわしと乱暴に撫でた。

「わあっ」
「いいから着ろ!あんな下着同然の服着てこられちゃウチの奴ら卒倒だからな」
「うー…わかった…(なんでそもそも私が人間と食事しなきゃならないのよ…?)」

サキュバスにとって人間の食事はデザート感覚に近い。まあ獅郎との行為でお腹も満たされたことだしデザートは魅力的。サキュバスは仕方なく修道服の裾に手を伸ばした。













「ああ、みんな、サキュバスだ!仲良くしろよー」
「よろしくお願いシマス」
「「「「「…………」」」」」

南十字男子修道院の朝食風景はいつもと違っていた。神父である獅郎の隣には修道服を着たピンクの長髪の美少女。修道士達は皆唖然としていた。

「いや、…藤本神父どういうことですか?」
「いつ女性を連れ込んだんですか…昨日の夜、寝る前はいませんでしたよね」
「っていうかサキュバスって…色魔!?」

一気に修道士達が驚いて皆席を立つ。獅郎は豪快に笑った。

「ぎゃっはははは!!!やっぱ予想通りの反応だな!」
(予想してたんなら何か手があったでしょ…)
「そうだ、こいつは悪魔!お前らも知ってるだろ、男をたぶらかしてバイキング状態のエロいねーちゃんだ!」
「ちょっと獅郎それどーゆー意味」
「まあ訳あってな!昨日俺を食いに来たんだが俺が逆に食っちまった!にゃはははは」
「ねえちょっと殺していい?」
「とにかくまあ悪さをするわけじゃねぇ、とりあえずまあ朝飯一緒に食わせてやってくれ」
「藤本神父!相手は悪魔ですよ!!」

思った通り修道士は良い反応ではない。サキュバスはため息をついたが、獅郎に無理矢理席に座らされた。

「悪魔だからって全部を祓うもんじゃない」

急に獅郎の声が低くなり、真剣味を帯びた。

「悪魔の中にだって悪さをしねぇやつもいるんだ。こいつは俺達がこうしてメシを食うのと同じ行為をただしてただけだ。…悪い悪魔じゃねぇよ」
「………(獅郎…)」

本当に藤本獅郎という祓魔師は不思議な人物だった。サキュバスは獅郎を掴めずにいた。

「……わかりました。藤本神父が言うなら」

修道士達も席に戻ると、獅郎はにかっと笑った。

「よっし、じゃあ食うか。いただきます!!」
「………いただきます」

サキュバスは小さく呟いて食事を始めた。















「また来るだろ?」

夕方。修道院を去ろうとするサキュバスを玄関で獅郎が呼び止めた。

「悪魔にまた来い、だなんて言うもんじゃないわ」
「お前は特別だ。なかなか面白いねーちゃんだからな」
「………アンタも面白いわよ。数百年生きて来たけどアンタのような人間は初めて」

夕日が二人を照らし、影を伸ばしていく。

「俺はお前みたいに人間らしい悪魔ってのが珍しいぜ。いやあ昨日の乱れっぷりはまさに悪魔とは思えねぇほどの…」
「悪かったわね!素直で!!」

思わず頬を染めて叫ぶサキュバス。獅郎はそれが面白かったらしく、爆笑。

「な、なによ!」
「いやぁほんとにお前は面白ぇ!ムキになって怒るなんざ、色魔らしくねぇな?」
「!」

そう言われて自分でも初めて気付く。自分が行為を恥じて怒鳴るなんて初めてだ。

(……今までやってきた当たり前のことなのに……恥ずかしい、なんて…)

まるでそれは人間の女のような反応ではないか。サキュバスは自分でもわからなかった。

「また来いよ。俺もごちそうしてやるし、普通のメシも食わせてやっから。な?」
「………う、うん………また、来る」
「そうか」

にかっと笑った獅郎の笑顔が夕日と重なりあまりにも優しくて、サキュバスは顔をかああっと染めた。それが夕日のせいだと強く願いながら。




夕焼けに染まるあの人




■あとがき
過去編です!獅郎と仲を深めていくサキュバスでした。獅郎との絆が現在の燐への態度にも出て来ているのでしょーか…?


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