神父と色魔




結局、燐は色子と交わったことで童貞卒業…だったのだがどうも気分が浮かない。確かに気持ちよかったし、なんだかすっきりとはしたが色子が悪魔である以上今後の生活はどうなるのかと思っていたからだ。色子は「おなかいっぱいになったから眠くなった」と言い、燐の胸元でぐうぐうと眠っている。

「…ったく…どうすりゃいいんだ俺…」

とにかくこのままこの教室にいては危ないため、急いで鍵を使って寮の部屋へと戻り、色子を自分のベッドに寝かせる。雪男は朝まで戻らないからなんとかなるだろうが…。燐は服を着てそっと色子を見る。

(俺…さっきまで色子と……って何思い出そうとしてんだ俺っ!!!)

色子の柔らかな感触を思い出し、燐は顔を真っ赤にして首を振り、邪念を消そうとする。まさか自分の初めての相手が同級生でさらに色魔なんて。複雑な心境だ。すると色子が寝返りを打ち、何かを呟いた。

「?」
「……」
(寝言か?)

燐が布団をかけ直してやると、さらに色子がまた寝言を呟く。





「…ろ…………獅郎………」
「………え……!?」

色子の寝言に燐は目を見開いた。彼女が口にしたのは…自分の養父。サタンから自分を守るため、自ら命を絶った最強の祓魔師。

(ジジイ……!?なんで…色子がジジイを…)

次の瞬間。色子と行為に及ぶ前にも見た謎の映像が燐の脳裏に映る。

「!?な、なんだこれ…っ」

だが以前と違い、今度ははっきりと鮮明に映るその映像。それは………燐も知る場所、知る人物の………



















南十字修道院の部屋…燐や雪男が暮らしてきた部屋のひとつ。カレンダーの日付は今から二十一年前の十二月を示している。燐や雪男はまだいないこの時代。部屋のベッドには枕元に眼鏡を置いて熟睡する一人の男。そんな男の寝室の窓ガラスがひとりでに開き、冬の風が部屋に入ってくる。するとどこからか女の声がした。

「……美味しそうな男…久々に物質界に来てイイ男を見つけたわ」

声はクスクスと笑う。次の瞬間、月明かりが照らす部屋に暗闇からふうっと人影が出てくる。そこには黒い下着の上から紫の薄いレースを羽織った露出の多すぎる格好にピンクの長髪、そして緑の瞳、悪魔の象徴である耳と尻尾を生やした美少女が現れたのだ。そう、彼女は東雲色子の姿…色魔サキュバスだ。サキュバスは眠る男に近付き、そっと馬乗りになる。

「さあ…楽しい食事タイムの始まりね。あなたの夢の中に入れさせて…」

サキュバスが男の額に自らの額を当てようとしたその時…








がばっ



「きゃっ…!?」

いきなり視界が反転し、サキュバスは突然起き上がったその男に逆に押し倒されていた。サキュバスは予測できなかった事態に困惑する。今までこんなことはなかったからだ。

「……成る程な、確かに理想の女ってやつだ。眠っている男の理想の姿で現れ、夢の中に侵入して交わり、精気と欲望を吸い取る夢魔…そうだな?サキュバス」
「……っアンタ…一体…っ」

男は枕元にあった眼鏡をかけ、サキュバスを押し倒したまま言った。…藤本獅郎、彼はサキュバスの行動を予測していたのだ。

「俺は、祓魔師だ。エサとなるヤツを見誤ったな?」
「!!祓魔師…!?」

悪魔祓いを生業とする人間達。今までうまくかいくぐってきたはずなのにこんなところで出会うとは。サタンの愛人とはいえ、下級悪魔であるサキュバスが敵うはずがない。サキュバスは自分の危機を感じた。

「しかしまあいい女だな。ま、それも仮の姿だろうが」
「ど、どうして抵抗するの…!?男は理想の女の姿なら絶対拒まないのに!!」

この数百年、色んな男を相手にしてきたがほぼ全員が理想の女の姿に変身して迫れば拒まず受け入れてきた。この男に対しても、この男の脳内をのぞき、彼が最も理想とする巨乳の美少女に変身した。なのに彼はそれを拒んだ。祓魔師だから?

「バーカ…確かに外見は俺の好みだ。若くて巨乳だしな。だがな…中身はどうだ。俺は外見だけの女なんかまっぴらなんでね」
「な、中身…?」

意味が分からないと言った表情のサキュバス。彼女にとって、男は外見さえよければいいのだと思っていたからだ。意外な発言にサキュバスは目を丸くする。獅郎はサキュバスを見下ろして言った。

「お前ら悪魔にはわかんねぇかもしれねぇが…俺達人間は愛、ってのがあるんだよ」
「あい…?」
「外見や体だけじゃねぇってことだ………ったく、なんで俺を狙ったんだ?ほら、さっさと行け」
「えっ?」

呆れたようにため息をつくと獅郎はサキュバスから退いた。その行動にサキュバスは驚く。てっきり祓われてしまうと思ったからだ。獅郎はさっさとまた眠りにつこうとする。

「ま、待ってよ!!私を祓わないの?」
「なんだ?祓ってほしいのか?」
「そういうんじゃなくて…!アンタ祓魔師でしょ!?」

祓魔師は悪魔を見つければ手当たり次第に祓うものだと思っていた。だが彼は自分を見逃そうとしている。

「別にお前は悪さをする悪魔じゃねぇだろ?お前はただ男漁りしてるだけだ」
「(男漁りって!!)わ、私はっ」
「…お前はただ、腹減ってただけだもんな」
「!」

いきなり振り返られ、ふっと笑われた。その獅郎の表情にサキュバスはなぜか一瞬止まってしまう。こんな祓魔師を見るのは初めてだった。

「色魔は腹が減ってるから男と交わりたいだけ。別に命を奪うだとかそういう悪さはしねぇしな。だから祓わねぇ」
「……っねえちょっとそれで無視なの!?私すごくおなか減ってるんだけどっ!!」
「じゃあ他のヤツのところへ行けよ」
「アンタがいいの!!アンタのところへ来たのだって美味しそうな匂いがしたから………!?」
「じゃあ


ねだってみろよ」
「…えっ」

寝ていたかと思えばいつのまにか起き上がり、サキュバスの間近まで顔を近づけてきた獅郎。そしてそっと囁いた。サキュバスはその声に背中を震わせる。今までに会ったことのないような甘美な興奮。極上のごちそうだった。獅郎はサキュバスの腕を掴み、再び囁く。

「俺が食べたいんだろ?だったらおねだりしてみろ。……『食べさせてください』ってよ」
「そ、そんなっ…」

今まで男を手玉にとるタイプだったサキュバスにとっておねだりというのは受け身になること。男に対してそんな媚を売ることなんて…。だが、そうしてもかまわないくらい獅郎は魅力的だった。彼が欲しい。そう思った。顔を真っ赤にするなんて数十年ぶり。サキュバスは恥ずかしさをこらえて小さく呟く。

「た…………食べさせて……っ…くださ、い…っ」
「…………ごほうびだ」

サキュバスの顎を掴み、獅郎は深い深いキスをした。舌を絡ませると、サキュバスは電流が走ったかのような感覚に目を見開く。

(な、なにこれ…キスしただけで…満たされていく……美味しいっ…!!)

今まで味わったことのないようなキス。最高の美味。サキュバスは獅郎のキスに夢中になっていく。長年生きてきたがこんなにも美味しい男は初めて。味をしめてしまう。一度味わったらもう離れられない。獅郎はサキュバスを抱き寄せるようにして密着させる。ずっと味わっていたくなるようなそんなキス。しばらくして獅郎は唇を離し、頬を染めてうっとりとするサキュバスを見つめた。

「全く…どんだけ腹減ってんだお前?」
「は……すごく美味しい…」
「ったく仕方ねぇな………可愛い色魔に溺れるのも悪くねぇ。…今夜はごちそうしてやるよ、ただし見返りももらうぞ?ボインちゃん」
「いいわ…ね、名前教えて……」
「…獅郎、藤本獅郎だ。サキュバス」
「獅郎………もっとあなたが食べたい…」
「食べ放題だ、感謝しろよ」

最強の祓魔師と色魔のはじまりはこの夜からだった。




神父と色魔




■あとがき
獅郎との出会い編です。色子ことサキュバスと獅郎の過去編は結構大きな軸となってきます(多分)。
獅郎の理想の姿=現在の東雲色子の姿なんですね〜。


[ 9/29 ]

_
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -