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「たいちょ!」


「……………」





候補生、0組所属の一応私の恋人である○○が深夜2時に会いに来た。

一応、と言ったのは私とこいつの間柄には制約が存在するからだ。

“―一線は越えない”





「たいちょ?」


「確かに、今日は部屋に来て良いと言ったがな。まだ、深夜だぞ」

「へへ、早く会いたくなっちゃって!」





悪びれもせずにそう言う彼女に、マスクの下の私の口の端は引き吊った。

お邪魔しまーす、といつの間にか私を通り越して中に入っている彼女の姿に私はもう諦める以外の選択肢は無い様だ。

これから睡眠をとろうとしていたのに。



踵を返して中に戻ると、彼女は大人しくソファに座っていた。

膝の上にはトンベリが座っている、表情を見れば○○が来て嬉しいといったところか。





「○○、何か飲むか?」


「お構い無く!たいちょ」


「そうか。此処では、別に名前でもいいのだが」


「あ、そっか。クラサメさん」


「あぁ」





まさか自分からあんな事を言うとはな。
今、後悔に襲われた。

まるで、私が名前で呼んで欲しかったみたいではないか。


元々、告白をして来たのは○○だ。
両手で足りない程に断ってきたのは、私。

それでも○○は諦めずに、何度も“大好きです”と伝えてくれた。

ついには、私も折れた。
ほだされたのだとばかり思っていた。

違う、口にこそした事がないが私も彼女の事が ―





「クラサメさん?」


「…あぁ、どうした?」


「ぼーっとしてたよ、眠い?」

「まぁ、少しな」





そう答えると、○○とトンベリが顔を見合わせる。

彼女の膝の上に居たトンベリが素早く下りると、○○は自分の膝を叩く。





「どうぞ?」


「…………」


「たいちょ?」


「その呼び方はよせ」


「ふふ、クラサメさん。こっちに来て?」


「仕方ないな」





ゆっくりと彼女に近付いてソファに腰を下ろし、○○の膝に頭を乗せる。





「どうですか?」


「どう、とは?」


「膝枕の感想は?」


「柔らかい」


「はは!クラサメさん、変態っぽい」


「………お前な」





少し睨む様に見上げてやると、全く怯んだ様子の無い表情に微笑を乗せ見つめ返される。

………マスクしていて、良かった。





「眠るなら、マスク外した方が楽なんじゃ…」


「ん?あぁ、まだ君の前で外した事はなかったな。興味があるか?」


「はい。そりゃ、もう!」


「ふっ、素直だな。まぁ、見て気分の良いものではないと先に言っておこう」





○○の期待の眼差しを振り切る様に、徐にマスクを外す。

邪魔だとばかりにテーブルに放った。


彼女の反応が気になり、視線を移したと同時に私の口元に触れた指先。

遠慮がちではあったが、その指に嫌悪を示すものを感じなかった。
私に向けられた瞳にも、哀れみがない。






「戦乱を生き抜いてきた人の、勲章ですね。今、クラサメさんが此処に居て…私と出逢ってくれて本当に良かったって思います」


「…………」





私は馬鹿だ。
こんな事を言ってくれる人があと他に居るだろうか?

出逢えるだろうか。


私は、恵まれているのだ。
こんなにも、自分を想ってくれる○○に出逢えて。

隊長と候補生だからと、制約と称し一線は越えないと約束させたのは己が傷付くのが恐かったからだ。

情けないことだ。
こんなに真っ直ぐに感情も愛情もぶつけてくれる○○に対して私は、失礼だった。





「○○、すまなかった。私が間違っていた…制約は撤回したい」

「クラサメさん」


「こんな戦乱の世だ、何が起こるか解らない…だが、私にはもう○○以外には居ない」


「…………っ、」


「愛している」





泣き出した○○を見上げながら、溢れる涙を指先で拭い去った。
私の名を呼びながら涙する彼女が愛しくて、泣き止むまで手を伸ばして頭や頬を撫でていた ―










「制約のこと、怒ったっていいんだぞ?」


「いいえ、ちゃんとクラサメさんに認めて貰えたからいいです!それに、愛してるってはじめて言ってくれたし〜」


「………もう言わん」


「えぇ〜」


「その代わり、」





身体を起こし、彼女の後頭部に手を回してキスをした。

涙の味がする唇を一舐めし、顔を離すと真っ赤な○○が小さく震えていて思わず笑みが溢れた。










                   end.




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