「ユキ、こっちだ」 「うん」 最近、ベクターは私を傍に呼ぶ。 今も、もう少しで作戦だけどまだ時間に余裕があるから手招きされた。 隣に行けば、別に何か用がある訳でもないから一緒に長椅子に座るだけ。 案の定、ベクターはタバコに火を点けている。 「……………」 「ねぇ、ハンクのとこに―」 「行かなくていい」 「!」 タバコを持っていない手が、長椅子に置かれた私の手の上に重なった。 「俺の隣は不服か?」 「い、いえ」 「敬語で喋るな、気色悪い」 「っな!!」 手をきゅっと握られて、顔を寄せられる。キスをしてしまえそうな距離だ。 ベクターは目を細めながら口角を上げた。 「俺はいいが、ユキがな」 「と、当然でしょっ!」 手を取り返して反対を向く。 クックッと笑い声が聞こえるから苛々した。 「ユキ、」 「なにっ!」 ちゅ。 え? 振り返ったら唇にキスをされた。ぽかん、としていると奴の唇が湾曲に撓った。 「隙ありだ、」 「ばかっ!」 手を振り上げると簡単に掴まれた。また、ぐいっと引っ張られて今度は肩に顎を乗せられる。 向かい合った状態でベクターが肩に顎を乗せるなんて、照れる。 「ユキ、今日は何をやる?」 「突撃兵。ルポ姉の代わり」 「危なっかしいな」 「っるさい!」 「殺しても死なないか」 「てんめぇ、」 文句を言おうとしたら、頬にキスをされた。 擽ったい、そう思って離れようとしたら腕を回された。 「拗ねるな。此処に居ろ」 「どうしよっかな、」 「どのみち、放さん」 「いや、放せよ」 ベクターが煙草を消して両腕を回してくる。 背中をぽんぽん、とすると“ガキ扱いするな”と怒られた。 私からベクターの頬にちゅっとキスをしてみる。 「誘っているのか?」 「これから任務です」 「任務がなかったらいいのか?」 「よくありません」 肩を押して放させる。 何処か不服そうな顔のベクター。 私が立ち上がると視線で追ってきた。なに、その置いていかれる子供みたいな。 「ユキ、任務が終わったらアレ作ってくれ」 「アレ?あぁ、お好み焼きね」 「唯一の得意料理だろう」 「待てコラ。こちとら、ずっと自炊じゃボケ」 「フン。そのわりには全部普通だがな」 「もーいい!!ハンクに食べさせるから。アンタにはないっ!」 ズンズンと歩いて外へ向かうと、名前を呼ばれた……けど、無視して部屋の外へ出た。 少しは反省しろ、バカ。 なんて思いながら、任務の準備はいいか確認する。 そこにハンクが完全装備で現れた。 「ユキ、今日は頼む」 「はーい、了解」 「サポートには、私が回るから問題ない」 「うん」 返事をするとハンクに頭をぽん、とされて何だか照れ臭い。 そう思った瞬間、腰に力強い腕が回されて肩口に顔が乗せられた。 この香りは、ベクターだ。 「マスター、ユキのサポートは俺がする」 「お前は先行だ。サポートする余裕はないはずだが?」 「…そっ、そーだそーだ!自分の任務を全うしなさいよっ!!」 「この危なっかしいのは、他の人間には任せられん」 「任務に私情を挟むな、ベクター」 「そうよ!それに、ハンクに失礼でしょ」 「……………」 ベクターは無言で私から離れて待機所へ。拗ねたな、あれは。 「どうしたんだ、アイツは」 「気にしないで?ごめんね、ハンク」 「あぁ」 結局、ベクターのご機嫌取りにお好み焼きを作る羽目になる。 end. (…足らん) (あの、5枚目だけど?) (食った気がしない) (デブるぞ) (お前と違って動くから問題ない) (…ベクター何か嫌いだ) (ほう?) (大嫌―っんぅ!)←キスされた |