「お前と居ると、落ち着く」





ベクターの部屋に遊びに来て、お互いに違う事をしていた。
そんな時にぼそりと、呟く様に言われた言葉に耳を疑う。





「え、」





奴らしくない言葉が聞こえて、ただ出しただけの言葉になった私の短い反応はスルーされる。

そっとベクターの体温が触れて、視線を送った。
奴はふっと笑って言う。





「ユキ、もし俺が本気になったとしたら色々と面倒だぞ?」


「何が?」


「俺は独占欲も支配欲も強い。加えて、自分の思い通りにならない事は嫌いだ」


「自覚、あんのね。私を縛り付けて言いなりにしたいってこと?」


「簡単に言えばそうかも知れん」


「わー、ちょっと遠慮したい」


「なら、俺はやめておけ」





やめろって言われてやめられる訳がないでしょ!
ニヤニヤしてる辺り、解ってて言ってる。

いきなり何を言い出すんだ、コイツは。
悔しいから言い返す。





「そうしようかな」


「ア?」


「冗談です、すみません」





今、一瞬目で殺されそうだった。




「俺が、好きだろう?」


「う、うん」


「離れたくない、そうだな?」


「あ、う、うん」


「殴るぞ」





歯切れの悪い私の返事に、ベクターは拳を振り上げた。

咄嗟に頭を両腕でガードする。





「ぎゃー!嘘です、ごめんなさい」


「俺がお前を殴る訳ないだろう」


「(いや、昔はちょいちょい殴ったり物が飛んできたり…)」


「ユキ、今考えてた事を言ってみろ」


「えぇ!?…ベ、ベクターが好きすぎて、辛い」


「…なら、死ぬか?」


「ぐえっ」





ベクターにこれでもかってくらい強く抱き締められる。
思わず、蛙が潰れた様な声を上げてしまった。

案の定“色気の皆無な声だな”と鼻で笑われたけど、もう慣れっこだ。





「そうだな、俺もお前が大事だな」


「!…どれ、くらい?」


「大したことないが」


「オイ!」





異常なくらい込められていた力が抜けて、優しい腕に身を預けた。

ベクターは耳元に唇を寄せて囁く。





「俺の、命よりは……な」





なにその殺し文句。
言い返そうとしたけど、唇を柔らかく塞がれてしまった。







言っておきます、私だってベクターの為なら死ねる …



きっと、言ったら怒られるだろうけど。










end.






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