アンブレラの足取りを追って、各国を皆で転々とした。 皆と別れて、私とベクターはアメリカに戻って来た。 そんな、矢先の事だった ― 「…嘘、でしょ」 生理が来ない。 不規則な生活が祟って、生理不順なのかと思ってた。 だけど、三ヶ月も来ないのはおかしい…そう思って買った妊娠検査薬。 出た結果は、陽性だった。 間違いって事もあると、ベクターの目を盗んで産婦人科にも行った。 結果は、変わらなかった。 どうしよう、まだアンブレラとの決着もついてない。 その足取りを追っている今、身重なんて洒落にならない…。 それに、ベクターって…子供嫌いそう…。 「…堕ろすしかない、かな」 そっと自分のお腹に手を添える。 でも、私だけの子じゃないんだからベクターにもちゃんと話さないと。 堕ろしました、なんて余りに勝手な報告過ぎる…よね? ――――――――――― 夕方、ベクターが偵察から帰って来た。 夕飯の準備を早々と済ませて、ソファに座っているとドアが開く音がした。 立ち上がって玄関までベクターを出迎えに行く。 「おかえり、」 「…あぁ」 「収穫はあった?」 「アンブレラがアフリカにも拠点を置いているらしい」 「…アフリカ、行くの?」 「当然だろう」 きっぱりと言われて、話す勇気が無くなってしまった。 今”お腹にアンタの子が居るんだけど”なんて言おうものならどんな顏をする? 目を見開いてフリーズするに決まってるわ。 でもね、避妊したがらないベクターも悪い。 だから、私は責任取れって言う権利くらいはあるんだけどね。 許した私にも責任があるから、敢えて言わないけど。 お腹に子供が居たら、飛行機は避けた方がいいだろうし。 出来れば私も任務を続行したい ― やっぱり、堕ろすしかないね。 「ね、ベクターは子供好き?」 「…は?」 「だから、子供は好きかって聞いてんの」 「扱い方が解らん。それに、喧しいのは嫌いだ」 「(…ですよね、)」 ベクターは装備を外しながら、私を怪訝そうに見る。 私を追い抜いて部屋の中へと入り、ソファに装備を放り投げた。 「何故、そんな事を聞く?」 「え?あぁ、ベクターと子供って結びつかないなって」 「…人の親なんて柄ではないしな」 ごめんね、君の事…産んであげられそうにない。 子供より、任務とか優先しようとしてる私達の間に生まれたら可哀想だよね。 「だよね。その前に、アンブレラを締め上げないと」 「―あぁ、それ以外に無い」 やっぱりベクターには言えない。 明日、また気付かれない様に病院へ行こう。 そして、手術を受けよう。 ベクター、言えなくてごめん。 産んであげられなくて、ごめんなさい。 ――――――――――― 病院に来ると、この間より人が少なかった。 ベクターは昨日の疲れがあったのか、ぐっすり眠っていたから良かった。 名前を呼ばれて立ち上がった時、入り口の扉が勢いよく開いた ― 「、ベクター?ど、して」 「来い」 「あ、でも今…順番きて―」 「受ける必要は無い」 「え…?」 ベクターは私の前まで来ると手を掴み、病院を出て行く。 駐車場に引っ張って行かれて、ベクターのバイクの前まで来た。 「何故、言わなかった」 「……っ、…」 「俺が、堕ろせと言うと思ったからか?」 ベクターは先日の病院の領収書を私に突き付ける。 「!」 「見られて困る情報は、燃やす事だな」 「…任務もある、し…ベクターは子供とか…」 「それで、昨日の質問か」 「……、ごめん」 「おかしいと思って調べてみれば、案の定だ」 泣きそうになって俯く。 産んでほしいと言って欲しかった訳じゃない。 でも、堕ろせとは絶対言われたくなかったのは本当だ。 「飛行機、乗れないから…堕ろすしか、」 「…お前はアメリカに残れ」 「え、」 「腹の子に障るんだろう?なら、アフリカへは俺だけで行く」 「あ、の…私、堕ろ―」 「つべこべ言うな。産めばいい、俺とお前の子だろう」 ベクターは私の後頭部に利き手を添えて、自分の胸に引き寄せる。 もう一方の手が優しく腰に回された。 「でも、アフリカ…私も行きたい」 「いいのか?腹の子が駄目になっても」 「………う、」 「大人しく、俺の帰りを待っていろ。産まれるまでには戻る」 “一人でも平気だな?”と視線を合わせて問われる。 そんなベクターの瞳はいつも以上に優しく、心配されているのが解った。 だから、私は力強く一つ頷く。 安堵した様に微笑んだベクターが、額に優しくキスを落とす。 「待ってるから、」 「あぁ。…そうだ、ユキ」 「ん?」 「愛してる―」 滅多に愛の言葉を言わない、ベクターの2度目の“愛してる”はプロポーズ。 いつか、その言葉をくれると零してくれたあの日を覚えてる。 「私も、ベクターを愛してるっ…」 ベクターに抱き着いて、涙声で言った。 優しく抱き締め返されて、頬に幾つもキスをされる。 零れた涙にも、一つ。 「身体、大事にしろ。必ず、迎えに来る―」 そう言って、まるで誓いのキスの様な口付けをくれた。 end. |