帰って来るのが遅くなった、ただそれだけだったんだけど ―





なんで、こうなるかな?
ベクターの部屋をノックして、ドアが開いたなと思ったら引っ張り込まれて、床に組み敷かれた。

余裕の無さそうなコイツを見るのは、すっごく久し振りだ。





「ただいま、」


「……遅い」





文句を言われた。
そして頭の上で両手を拘束されて、唇を塞がれる。

もう、言い訳も出来ない。

何度も啄まれて、油断した唇を舌で割られる。
くちゅっと水音がして舌を絡ませてくるから、素直に従った。





「ふ、ぁ…っ」


「手は出されなかったか?」


「だ、れが…私なんか、に」


「それもそうか、」


「オイ」





抗議をしてやろうとしたら、再び唇を塞がれる。
何となく腕を離して欲しくて抵抗してみるも、ぐっと力を入れられてしまう。

するすると、ベクターの手が私の胸の辺りを撫でる。





「ちょっ、…ベクター!」


「なんだ?」


「や、りすぎ…じゃない?」


「なら、抵抗したらどうだ?」


「アンタに敵う訳ないでしょ!」




胸元に唇を寄せて、ちゅっとキスをされた。
ぴくっと身体が反応して、ベクターはニヤリと口角を上げる。





「好きにしていいと、そういうことか?」


「違いますっ!」


「…………ちっ、」


「オイコラ。溜まってるなら、そういう女を相手にしなさいよ!」


「女は面倒だ」


「私も女ですけど、一応」


「あぁ、一応な」


「……てめぇ、」





ベクターは“興醒めだ”と私の上から笑いながら退いた。
私は急いで身を起こし、部屋へと戻るベクターの背中を見送る。





「なんなのよ!帰る、じゃあねっ」


「何しに来たんだ、お前は」


「……帰ったから、顔を見せに来ただけ」


「あぁ、よく戻ったな」


「誰かさんが寂しがるからね」


「言ってろ、」


「別に、ベクターとは言ってないよ?」


「…っ!さっさと部屋に戻れ」


「はいはーい」







こっそり近付いて、ベクターの耳元で“ただいま”と囁いた。

奴は鼻を鳴らしただけだったけど、ちょっと耳が赤かった気がした。

多分、気のせいじゃない ―











end.





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