ユキとハンクという男の組手を見た。普段、仲が良いらしい二人も演習となると殺気だった雰囲気を醸し出す。

俺は、その殺気が心地好いとさえ思える ―


殺しこそしないものの、互いに本気なのがひしひしと伝わって来て、辺りを見れば他の奴等が鳥肌立っていることに気付いた。

一瞬の隙を衝いて、ハンクがユキのコンバットナイフを弾き、体勢を崩して地に倒れ込んだユキの喉元にナイフを突き付ける。

決着がついた、誰もがそう思っただろう。

しかし、ユキはハンクの腕に足を絡ませて捻り、ナイフを落とさせたのだ。





「!」





しかし、その後の事は考えてなかったらしくハンクに羽交い締めにされて呆気なく終わった。

しかし、あの機転はなかなかないだろう…まして、女。

ユキがハンクと話を済ませて、俺の方へ歩いて来る。
何だかんだで、コイツと過ごす時間が多い様に思う。

この女はお節介なのだ。





「ハンクと組手すると一気に老ける気がする」


「は?馬鹿かお前。そのうち、白髪になるぞ」


「ひどっ!」


「ハンクからナイフを奪えたまでは良かったが、問題はその後だな」


「あー、うん。次までには考えておくよ」


「……………」





暢気な奴、だが悪くはない。
体術も射撃もプロ並み、右に出る者は今までは居なかったらしいからな。

だが、俺は負けない。
今に解るさ、俺との覚悟の違いを ―







――――――――――





「え、殺したの?」


「あぁ、」


「な、んで?」





ある日の組手で、俺は対戦相手を殺した。殺らなければ殺られる、そんな状況に追い込まれて殺せなかったら俺が此処に居る意味なんて無い。





「殺されそうだったからな、」


「……そ、っか」


「なんだよ、文句でもあるのか?」





女の事だ、どうせ“殺さなくても”“やり過ぎ”“酷い”等と好き勝手に吠えるに違いない。

だとしたら、俺はユキを認めない…この先、ずっと ―





「…怪我は?」


「は?」


「だーかーら、怪我はねーのかよ!」


「……無い、」


「少しは出来るみたいね?楽しみだなぁ、」


「……………」





…いいだろう。
ユキの意識はプロだ、俺と同じ頂点を目指すものだと受け止めよう。

いつかは、ハンクを越えてやる ―





「じゃ、またね」


「…おい、」


「え、なに?」


「夕飯、起こしに来い。付き合ってやる」


「偉そう!じゃ、おやすみ」


「…………ふん」







まぁ、悪くはないだろう ―










end.





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