ユキ、お前と訓練を受けるベクターだ ―





師であるハンクにそう言われた。

振り返ればそこには私と同じ、日本人、しかも男が立っていた。

ロックフォート島で訓練を受ける中、脱落者が過半数を締めた。

また、追加?
どうせ、三日と持たないだろう。




「日本人?」


「…まぁ、そんなところだ」


「(そんなところ?変な奴)」


「競い合う間柄で、挨拶も糞も無いな」


「―ちょっ、」





私の名前を聞かずにベクターという男は、背を向けて寮へ向かう。
今しがた到着したのだろう、少ない荷物を片手に歩き出す。





「ハンク、」


「なんだ?」


「私、アイツと仲良くなれそうにない」


「はは、いいさ…お前達はライバルなんだからな」





ハンクは笑いながら、私の頭を撫でてくれた。
アイツより私の方が先輩なんだからねっ!

……3ヶ月だけだけど!





「今日から筋トレ増やそ」


「張り切ってるな、良いことだ」





そりゃ、誰が来ても負けないくらいに鍛えなきゃ!
ハンクみたいになりたいさ、何より尊敬してるハンクに褒めてもらいたいもん。







――――――――――





翌朝、食堂に行くと新人のベクターが先輩の洗礼を受けていた。

壁際に追い込まれて、三対一だ。卑怯と言えば卑怯だが、此処ではそれが通用しない。

弱ければ命を落とす ―


私は気にしながらも、バイキング形式の食事を皿に盛っていく。
朝だから軽めにしておこう。

あ、お皿三つになっちゃった。


ふと、ベクターの方を見れば胸ぐらを掴まれている。
はぁあ、朝から気分悪いな…手にしたフォークをベクターと絡んでる男の顔の間に投げた。

ビーンッ、と壁に刺さったフォークが上下に揺れた。





「「!?」」


「あら、ごめんなさーい。手が勝手に」


「ユキ、てめぇ…邪魔しようってのか?!」


「朝っぱらから暑っ苦しいのよ!新人に絡むのはやめなさい」





ベクターに近付いてフォークを抜く。ちらっと見れば、何処かを見ている。
しかも、どうでもよさそうな顔だ。





「次の組手で痛い目に合わせてやるからな」


「楽しみにしてるわ」





棒読みで言い、ベクターの手首を掴んで引っ張った。
驚いた顔をした気がしたが、私の席の向かいに来て座る様に顎で促す。

奴は渋々だけど、椅子に座った。
料理を盛った皿をベクターの前へ寄せる。





「お節介」


「その前にありがと、は?」


「恩着せがましいな、別に頼んじゃいない。あんな奴等、どうにでも出来るが少し気を使っただけだ」


「気を使った?」


「朝っぱらから、食事処を血の海にしても良かったか?」


「…へぇ、ただの新人じゃないんだ」





ふん、と鼻を鳴らしたベクターは顔を逸らして食事には見向きもしない。
だから私は勝手に食べ始めた。





「朝から、そんな量をよく食えるな」


「動くからね。あ、夜は食べないよ?朝と昼だけね」


「…お前、本当に訓練生で一番強いのか?」


「ハンクから聞いたの?まぁ、一応ね。適性が一番高いみたいよ」

「ほう、」





少し興味を持った様に、ベクターは私に視線を移す。
私は小首を傾げながら、料理を口に含む。

ごく、と料理を喉に通した。





「なに?」


「俺とお前の適性数値が同じだと、あの男が言っていた。名前を聞いてやる」


「あ、そう。ユキだけど」


「覚えておいてやる。俺は、お前を越える男だ―」


「!」







ま、負けねぇ!!
そう、強く思い料理を次から次へ口に含んだ。


打倒、ベクター!










end.





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