振り向くとそこにはスーツ姿の男が立っていた。整った顔立ちで老けている様子はない。二十代前半といったところだろうか。綺麗な黒髪は短く清潔感があった。切れ長の目は凛としてこちらを見据えている。緑は蛇に睨まれたカエルのように身動き一つ取れなかった。
スーツの男は先程緑に襲われていた警備員に視線で合図をした。
立ち上がった警備員は自身の首に巻かれた紐を解いていく。
それで再び襲われると思ったがそうではないらしい。警備員は何事もなかったように持ち場に戻って行った。気がつくと、鉄格子の向こうにいた翡翠の姿も消えていた。

どこに消えたのかと周囲を見渡しているとスーツの男の声が降ってきた。
「君は過去に、人を殺したことがあるね?」
その問いかけに緑はドキリとした。
緑は確かに、過去に人を殺していた。しかしそれは、母が強盗に襲われた際にとった行動であり正当防衛である。
「なんでそれを……」
男は緑の問いには応えず言葉を続ける。
「君の正義というナイフは強い。しかし、鋭すぎる。君の中にはどうやら悪魔がいるようだ」
男は一人納得したように頷き、緑の腕を掴んだ。
「こちらに来なさい」
そう云うと男は、緑の腕を引っ張りながら歩き出した。


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