会場へと入った緑は先程まで歌っていた聖歌隊の姿がなくなっている事に気がづいた。それだけではなく、パイプオルガンを弾く者も最初から存在しなかったかの様に忽然と姿を消していた。
辺りは静寂に包まれていた。
緑は辺りを見渡す。しかし、誰の姿も見えなかった。
ふと、左側頭上で黒い影が揺らめいた気がした。緑はそちらを向く。
するとそこには、警備員と思われる青い制服に帽子を被った男性が翡翠と一緒にいた。翡翠は警備員に捕まえられる様にして三階へと上がって行く所だった。

「兄さん!!」
緑は咄嗟に叫んだ。その声が聞こえたのか翡翠が振り向く。しかし、傍にいた警備員がこちらに気づくと慌てた様子で抵抗する翡翠を三階へと連れて行ってしまった。
何故翡翠が警備員に連れていかれたのか。そう疑問が浮かぶより先に緑は走り出していた。元来た通路を引き返し、階段を駆け上がる。二階に着いた緑は速度を弱めることなく二つの部屋を抜け廊下へと到着した。
廊下には三ヶ所扉があるが、それは扉というよりもアーチ型のトンネルの様なものだった。それにはドアが付いておらず、その代わりに真っ赤な幕が掛かっていた。
翡翠と緑が最初に二階で眺めていた場所は、ここの中央のアーチを通った先の観客席だ。
先程下で翡翠を見かけたのは一番左。
緑は左手のアーチを駆け抜けた。


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