そんな漆間の態度を気にせずRudは喜びの感情を表してみせた。
「わーい是非教えて欲しいです。実戦用の複合武道しかやったことがなかったのでとても嬉しいです。宜しくお願い致します」
Rudはぺこりとお辞儀をした。
頼まれるのは悪い気分じゃない。
「お前の身体って倒れても壊れたりしないよな?……俺の胸あたり掴んでみろ」
漆間は早速指示を出す。
Rudはその指示に従い漆間の胸ぐらを掴んだ。
その瞬間、舞う。
気がつくとRudの肩は地面につき、漆間に倒される形になっていた。

「……今の、基本」
Rudを離しパンパンと服をはたく。
「……わお。驚きました。これが基本ですか。とてもすごいです。感動ものです。楽しいです。ふむ、私にも出来ますでしょうか?」
Rudは目を丸くしたまま言った。
「楽しいのか……。こんなもん誰だってできる。ただの護身術だしな。……やってみるか?」
興味を持ってもらえたことが意外と嬉しかった。

漆間の問いかけに無表情を保ちつつRudが答える。
「?いいのですか?是非やってみたいです。漆間さんを倒すということになってしまいますが」
「良いよ別に。受け身とる練習になる。……さっき俺がしたようにしてやってみろ」
そう言うと漆間はRudの胸倉を掴んだ。相手はロボットと分かっているものの女子の胸近くを掴んでいるという事実にどこか罪の意識を感じる。が、武道に雑念は不要である。
「成る程。では失礼します」
Rudは頷くと掴まれた腕をとり、先程の漆間の行動を真似た。
漆間が一瞬宙を舞うと、綺麗に肩から地につき受け身をとる。
「っと、……まぁ、できてんじゃね」
漆間は立ち上がりパンパンと服の埃を払いながら言った。
その言葉を聞いてRudはガッツポーズをしてみせた。
「本当ですか?やりました。ふむふむ、基本でこんなにも楽しいとはやはり奥が深いです」
楽しんでもらえている、でいいのだろうか。Rudの感情が読めないのは当たり前のはずだが、やはりどこか気にかかる。
「楽しい、か。なぁ、アンタに感情はないんだろ?……ここではこう言うみたいなプログラムが組まれてるわけ?」
漆間は感情を表現するようなシステムが予め設定されているのかと考えたのだ。
Rudはその問いに考えるようなそぶりをしてから答えた。
「なんといいますか、もう少し複雑です。私の制作元になった方の趣味傾向を合わせてブレインが構成されていますので、その感覚が働けば楽しいという感情が動きます」
漆間は難しい用語に首をかしげる。
「……?ブレイン……?やっぱ機械はよくわかんねぇな」
「機会は複雑ですからね。自分で言うのも何なのですが」
Rudは表情を変えず淡々と言葉を発する。
ブレインについて聞けば説明してくれるだろうが長くなりそうだったし、そもそも漆間はそこまで興味がなかった。
漆間は一通りRudのことを理解したので話を切り上げることにした。
「ふぅん、まぁいいや。そろそろ俺は行く。いろいろと調べたいからな」
そう言って漆間は背を向け歩き出した。
「あ、ご指導有難うございました。いってらっしゃーい」
Rudは去っていく漆間の背にお辞儀をし、見送ったのだった。

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