漆間はRudと別れると宛もなく廊下を歩いていた。
すると奇妙なものが目に飛び込んできた。その人物はニッコリ笑った顔のお面を被ぶっており、服はとてもカラフルでいかにもサーカスに出てくるピエロ、といった姿をしていた。身長は170cmくらいだろうか。かなり高いヒールを履いているので元の身長は小さいのだろう。
「ワタシも廊下でジャグリングなどを〜ピエピエピエ〜〜♪」
ピエロは鼻歌を歌いながら廊下をぴょんぴょんと移動していた。

漆間はそのピエロが気になり適当に声をかけることにした。
「おい、そこのピエロ。バク転の邪魔」
漆間の声が聞こえたらしく、ピエロはこちらに振り向いた。
「ソンナッ!邪魔だなんて酷いで御座いマス!!それに気にせず突っ込んで来て下さって構いまセンよ〜避けるなど造作もない事デス……ピエピエ」
そう言ってピエロは大袈裟に肩を落としてみせた。
中性的な声で性別がわからないがあまり意識することではないだろう。
それよりも漆間は語尾が耳障りだった。
「ぴえ……?なんか喋り方ウザいな……。そうだ、アンタ才能は?」
漆間のウザいという言葉を聞いてピエロはまたも大袈裟に驚く素振りをした。
「ガーーン!!ピエロショックで御座いマス!!!!ハッ!申し遅れマシた、ワタクシは道化師のピエロと申しマス!アナタサマはどなたでしょうかっ!」
漆間はピエロの勢いと仮面の威圧感に気後れした。
「えっと、漆間……緑。……なぁ、威圧感半端ないんだけど。その仮面取れねぇの?」
「取るだなんて!これがワタクシの素顔で御座いマス!」
「はぁ?どう見ても素顔じゃねぇだろ」
ピエロの言葉に漆間はツッコミを入れつつ言葉を繋げる。
「道化師っつったな。何が出来るわけ?」
その問いかけに少し考えてピエロは応えた。
「そうデスねぇ……ジャグリングや玉乗りや、ミナサマを楽しませる事なら何でも出来マス!」
ピエロは胸を張った。
その様子を見て漆間は少し試してやろうと考えた。
「じゃあ、マジックとかも出来んの?」
「ハイ〜♪本職の方には劣りマスが、簡単なものナラば幾つか……ご覧になりマスか?」
漆間は頷いた。
「ンフフッ、分かりマシた〜♪では右掌を上に向けて開いて、その上に漆間サマの電子生徒手帳を乗せて下サイな〜♪」
漆間は言われた通りにしてみせる。
「……こう?」
「そうデスそうデス〜♪デハデハ掌にワタクシのハンカチをかぶせマシて〜?」
そう言いながら漆間の掌にハンカチを被せる。
そして、ピエロは「ハイッ!」という掛け声と共に指を鳴らした。
ピエロがハンカチを取る。そこには乗せていたはずの生徒手帳が消えていた。


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