再び自室に戻った漆間は深いため息と共にベッドに横になった。
まだ二人としか話していないのにこの疲労である。
会話をするという行為自体苦手な漆間にとって、交流をするという使命は過酷なものだった。
しかもここは1階と中二階しかないのだ。部屋から出れば嫌でも人と会うことになる。
漆間はリアの話を引き受けたことに後悔していた。
 
 そんな時、ポケットの中の生徒手帳が再び振動した。
漆間は画面を確認する。
「少し教えて欲しいことがあるんだけど〜いいかな〜?」
やはりリアからのメッセージだった。
その問いに且座等と漆間は反応した。
「えっとね〜君たちを合わせてそちらには何人いるのか、教えて欲しいんだ」
間をあけて、そうリアから返ってきた。
こちらの人数を把握してないはずがない。
漆間はリアの問いに疑問を持った。

且座等が問いに答える。
「えと、35人……?だっけ……」
「……やはり……そうか。どうも、怪しいことになっててねぇ〜」
「怪しいって?」
漆間は反射的に聞き返していた。

「……怪しいこと、って今朝言ってた上の人たちがおかしい……って言ってたやつ?」
そう且座等が問いかける。
「そうそう〜君たちのクラスメイトだけど〜確かに君たちを合わせて35人なんだけど〜」
 そこでリアは言葉をきる。
漆間は画面を注視する。

「あの事件で捉えたのは〜君たちを抜いて〜……」

――32人だったそうだ。

 漆間は気づく。数が合わない。
「……1人どうしたんだ?」
そうリアに問いかける。
且座等も疑問に思ったらしい。
「逃げられちゃったの……?というか……あれ……まって、僕ら抜いて……今33人、いるよね……?」
且座等の文から混乱しているのが読み取れた。

「ひとりは……どうやら逃げ延びたようだね。危機を察知して……利口だよね」
リアは説明した。
「僕は君たちのいるバーチャル世界の外――現実世界からモニターを通して話しているわけだが、こちらが確認できる生命反応は……君たちを合わせて34人なんだ」
つまり、
(1人だけ異質な存在が混じっている……?)

 馬鹿馬鹿しい。
「何だそれ。幽霊かなんかでも混ざったか?」
漆間は冗談をいった。
しかし、そんな漆間とは対照的にリアは真剣だった。
「ううん……幽霊か……。僕も、ハッピーフラワー幸花で走り回ってはいるんだけど〜……いったい誰が見えてないのかわからないんだ……」
リアは本当に困っているらしい。
「とにかく〜僕は一応〜その逃げ延びたひとりが誰なのか、調べてみることにするよ」
漆間と且座等は了解した。

 それからしばらく生徒手帳が振動することはなかった。
漆間は手帳を遠くへ放り投げた。
ぼんやりと天井を見つめる。
疲労。
慣れない環境のせいか漆間は疲れていた。
更生させる為とはいえ、これでは監禁されているのと変わらない。
かと言って、ここから出ても漆間は何も変わらないのだろうと考えていた。

 漆間に両親はいない。
死んだのだ。
交通事故だった。
その日から、漆間は“悪運”と呼ばれるようになった。
しかし、外に待っていてくれる人がいない訳ではなかった。
漆間には双子の兄がいる。
いる、といってももう何年も合っていない。
生きているのかすら判らなかった。

 漆間は疲れを吐き出すように深くため息をついた。
目を閉じる。思考を停止させる。
漆間はそのまま浅い眠りへと落ちていった。


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