漆間は今度は倉庫に向かっていた。
倉庫は1階、エントランスの左側。厨房のあった場所とは反対側に位置している。
ランドリーとトイレを過ぎ、漆間は倉庫の扉の前に立つ。
誰かがいる気配がする。
漆間はドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し中へと入る。

――ぴょんぴょん

 漆間の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
漆間が見たのは小さな少年が棚に手を伸ばし、飛び跳ねているところだった。
「……何やってんだ?」
 漆間は思わず声をかける。
それに驚いたらしく少年は声をあげた。
「ぴぎゃぁ!?」
少年は振り返りじっとこちらの様子を伺っている。
 
 漆間は改めて少年の格好を確認する。
且座等同様、髪は白く右目が隠れている。
紫色の角のような物がついたカチューシャをしており、足は半分だけ肌が出ていた。
腰には蝙蝠のような羽がついていてなんともおかしな格好だった。
身長は150p半ばくらいだろうか。

「なんだオマエ」
その少年はじっと漆間を見ながら問いかける。
「漆間緑。お前は?」
そう問いかけると同時に少年はごそごそと生徒手帳を取り出す。
画面とこちらの顔を交互に見ている。どうやら確認しているようだ。
「……漆間。把握した。オレを縛る真名なぞ存在しないが……どうしてもというなら後閑と呼ぶがいい」
その言葉づかいと上から目線に漆間は思った、
「お前って厨二……?」
「ちゅうに……?これでも超高校級、小さいとはいえ愚弄することは許さん」
言葉の意味を知らないのだろう。
 後閑と名乗る少年はそのまま棚の方を見て続けた。
「あれ、食せる物か?」
「あれってどれ?」

 後閑は自分よりも高い位置を指さした。
漆間は指さされた先を見る。
そこには手のひらサイズの四角く白い固形物があった。
漆間はそれを取って後閑に渡した。
「食ってみれば?」
漆間は冗談半分に言ってみせた。
しかし、後閑は冷静だった。
「口にできるものか確証が得られぬ限り得策ではなかろう。……厨房に行く」
そう言うと棚を見上げた。
どうやら固形物を元の位置に戻したいらしい。

「……貸せ。戻してやる」
見かねた漆間は仕方なく戻してやることにした。
「うむ、頼む」
漆間はそれを受け取り戻すと後閑に向き直る。
「で、お前は厨房に行くのか?」
「うむ、感謝する。生野菜くらいあろう?口にできればそれでいい……オマエは戻るか?」
「ふぅん。ああ、戻る。じゃあな」
漆間はそう言って倉庫を後にした。

しかし、漆間たちは気づかなかった。
白い小動物がその様子をこっそり覗いていたことに。
「(あいつらやべぇぞ……石鹸食おうとしてやがる……やはり海外産のを仕入れるべきではなかったか……)」

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