「そしてもうひとつ、このプロジェクトには目的がある」
リアは説明した。
「絶望の王の復活、と言われた彼らだが……、果たして本当の王は誰だったのか……未だに分からず終いだ。王いずしてのまとまりはない。彼らがあんなに……不自然にも仲良くまとまっていられたのは、力のある王の存在があったからだ……」
―――絶望の王
「未だに誰も……それが誰だったのか……言わなくてね。それを君たちに調べてほしいんだ。彼らと直接関わることによって、ね〜」

 沈黙。

 漆間は正直うんざりしていた。あの暴動は自分にはもう関係ないことだと思っていたし、二度も機関に協力する気はなかった。例え、協力したとしても自分の記憶が奪われる意味が判らなかった。
 そんな二人を説得するかのようにリアは穏やかな口調で言った。
「どうだろうか……。君たちはもう、彼らとはいたくないだろうか?もうクラスメイトではなくなってしまったのだろうか?受けて、くれるだろうか?」

 少し間をあけて且座等が口を開いた。
「……僕は……、僕は、必要とされてるなら……受けます。彼らとだって、ちゃんと……向き合いたい。避けてちゃ、ダメだから……。だから、受けます!」
且座等の目は真っ直ぐスクリーンを見つめていた。
「うん〜杜若ちゃんならそう言ってくれると信じてたよ〜!」
嬉しそうにスクリーンに映る影が揺らぐ。
「緑ちゃんは〜?」

(俺は……)
漆間はすぐに答えることが出来なかった。

 漆間は迷っていた。記憶を消されることに。仲間との思い出が大切だった訳ではない。自分の何かが、奪われるのが嫌だった。だが、迷ってる暇はない。
且座等とリアは漆間の決断を待つ。

 長い沈黙の後、漆間は溜息とともに言葉を放った。
「……はぁ、じゃあ……やる」
且座等がやるのなら。それが漆間の出した答えだった。
「ふふ……、ありがとう〜緑ちゃん〜」
「ちゃんづけはやめろ」
二人のやり取りを見て且座等は安堵の表情を浮かべた。

「本当にありがとう、二人にはとても感謝している。」
リアは改めて二人に感謝した。


(明日、装置に……)
 明日に全てが始まる。新たな生活が。緊張した様子が伝わったのか、リアは軽い調子で続けた。
「でも安心してよ〜!あっちの世界でも〜いつでも君たちは〜僕とお話ができるよ〜ん。情報交換は〜バッチリしようね〜お兄さんとの約束だぞ〜☆」
 さっきまで気を張っていたのが馬鹿らしくなるくらいに軽い。
「う〜んとう〜んと…多分これで終わり〜!伝え終わったと思う〜!ま〜!こちらからわかった情報があればちゃんと伝えるから〜!」
且座等はまだ緊張した様子でスクリーンを見つめていた。
「大丈夫〜大丈夫〜杜若ちゃんのそのプリティフェイスがあれば〜へっちゃらだよ〜ん」
リアはその緊張を緩和させるように言葉を投げかけた。
「プリティ……けがだらけなのになあ……うぅ……頑張らなきゃ……」
 且座等は顔の絆創膏に触れた。
逆にプレッシャーとなっているように思えた。

「あ〜そうそう!記憶が抹消される範囲は君たちが過ごした学園期間〜
だから〜みんなは〜入学前だと思ってるからね〜君たちも適当に話を合わすこと〜おっけ〜?」
二人はそれに了解した。
「それじゃあ〜また明日、向こうの世界に行ったらまた連絡するね〜。ばいば〜い」

 ブツっとスクリーンから影が消えた。それはもう何も映すことはなかった。
漆間と且座等はその部屋を後にした。明日に備えて。

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