ザザッと音をたてながらスクリーンに影が映る。
突然のことに漆間と且座等は驚き、スクリーンに目を見張った。
「……あー、あー、あれ?聞こえてるかな〜?」
 男性の間の抜けたような声が空間に広がる。
漆間は警戒していたが、隣の且座等は驚きの声を漏らしていた。
それが聞こえたのか影は揺らいだ。
「ああよかった〜。見えてる〜?」
「み、みえて、ます……」
 恐る恐る且座等は言葉を返す。
その言葉にまた影は揺らぐ。
「なんか調子悪いみたいだね〜君たちの姿はこちらから見えないよ〜。なんでだろう〜?まぁ〜いいか〜。あらためて〜、お集まりいただきありがと〜。まず……そうだな〜僕のことが気になっちゃう感じだよね〜?」
 おっとりとした感じが違和感を生んでいた。二人はたじろぎながらも返事をする。
「あはは〜そうだな〜僕は〜、いや……僕たちは過去の『未来機関』の再設とでも言おうか……」
 突然違和感がなくなったように感じた。
影は言葉を続ける。


「絶望は過去のものとされていた。けれどまた、形は違えど復活してしまった……」
「……ぜつ、ぼう……」
 且座等は最近起こった事件を思い出すかのように呟いた。

 かつての未来機関は再設され『Neo』と呼ばれている。それが活動を始めたのは漆間緑と且座等杜若が学園にやって来た時だった。

希望ヶ峰学園。そこは卒業すれば人生において成功したも同然とまで言われている場所。

超高校級の才能を持った生徒たちが全国からスカウトされ入学する。漆間と且座等も才能を買われ、同じ日にこの学園のあるクラスに転入した。

そのクラスは世界に神だと崇められている奇妙なクラスだった。けれど、仲間思いの生徒たちの歓迎に二人はすぐにクラスに馴染んでいった。

ある時、彼らを神だと崇める集団が他国で大きな暴動を起こした。その後も各地で暴動が繰り返されていた。このクラスは世界に影響を与え過ぎていた。
しかし、彼らは笑っていた。少し驚きを見せていたが何事もないかのように笑いあっていた。

――――狂っていた

 いつしか二人が属するクラスは「絶望の王の帰還」と呼ばれるようになっていた。
そんなある日、二人の元に一通の手紙が届いた。
それは『Neo』からの協力要請だった。



 二人は指示の元、絶望の王を絶やすため活動を開始した。
クラスメイトと交流する中で彼らに一つの共通点があることに気づいた。
 大きな闇を抱えている。
二人はその闇を緩和させることで彼らに「希望」を与えていった。

 そんなある日、希望を取り戻せなかった数十名が学園自体の破壊を望み、暴動を起こした。あらゆる機関が集結し、暴動を抑え、そして彼らを捕らえた。
希望ヶ峰学園は再び閉鎖された。

 そして今、二人はまた機関に呼び出されている。
 絶望が残っている事実に且座等は困惑していた。その雰囲気を読み取ったのか影はゆったりと話を続ける。
「君たちの協力もあり、彼ら彼女たちはみんな……うん、まあ比較的平和に……、……暮らしてる、かな?」
 歯切れが悪いが嘘はついていないようだった。
「そしてそして〜僕は〜この件を担当している〜えーっと、……うん!リアって呼んでよ〜。言っとくけど〜一応〜君たちより〜お兄さんなんだからね〜」
 その間の抜けた自己紹介にイラついた漆間は心の中で悪態をついた。
が、それも読み取ったらしく
「こら〜!そこ〜!心の声が聞こえるぞ〜!」
漆間は不満気にため息を吐く。その様子を見て且座等はあたふたしていた。
気を取り直してリアは続ける。
「……まあ〜君たちに集まってもらったのは〜、さっきも言ったけど〜君たちが……いや、君たちのクラスメイトたちだけど〜」
リアはそこで一つ息をした。
「今は施設に入ってもらってるわけだけど〜、心のダメージって言うのかな〜それが〜み〜んな各々違っていてね〜。人形のように一言も喋らない子もいれば〜、……酷いと〜人と同じような生活が出来なくなっちゃった子もいてね〜」
「そ、そんな……!」
 クラスメイトのことを何よりも心配していた且座等は悲痛な声をあげた。

「暴れ出す子もいれば〜不自然に笑っている子もいるんだ……とてもじゃないが……あの頃言われていた未来の希望だとは、思えないね……。君たちが更生させた数人は〜比較的順調に生活しているよ〜」
「……それで?」
 漆間は急かすように先を促した。漆間にとって今のクラスメイトの状況などどうでもよかった。
「うん〜、それでなんだけど〜。やっぱり〜君たちのクラスメイトは〜とても優秀な子ばっかでね〜。……もったいないって、さ」
「もったいない……?」
「これは上の決定だから〜逆らえないんだけど〜彼らを更生させるプロジェクトが新設されたんだ。遠い過去にも同じようなことをしたことがあったみたいだね〜」
 二人はその説明に感嘆の声をあげた。
「脳に直接干渉し、記憶を抹消したうえで、塗り替える……。特殊な装置に眠った状態で入ってもらって〜バーチャル世界で再び人格を形成してもらう……、とまぁ!今回はそんなところ〜」
いきなりの科学的な話に頭が追いつかない。
「えと。それで僕たちは……なにを……?」
且座等の問いかけでやっと本題に入ったらしく、リアは少し声を落とし淡々と続けた。

「それで〜僕ら機関の人間は大人でね〜。やはり……同じことを繰り返させないためにも……彼らの更生に監視がいる。もう……わかるね?」
その問いが意味すること、それは
「……俺たちが監視しろと?」
リアは頷いたらしく影が縦に首を振る。
「君たちに辛いことを強いていることは理解している……だからこちらも少し〜考えたんだよね〜。君たちは〜使命を覚えながらも〜彼らとの記憶は抹消させてもらう」

 リアが何をいっているのかわからなかった。
(記憶を消す……?)
「君たちと彼らの関係も新たに築いてほしい」
リアは当たり前のように言葉を放った。
漆間は戸惑いを隠せなかった。数ヶ月とはいえ、培ってきた思い出が全てなかったことになるのだ。もちろん、隣にいる且座等との思い出も――

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