創作審神者あれこれ | ナノ
一期一振×審神者

都本丸の場合
この本丸の午後は少々慌ただしい。昼餉の片付けをし、短刀たちを寝かし付けると、庭の花たちに水やり。それから執務室へと移動して、大広間で待っていただいた主と共に机へと向かう。本日も内番衣装から室内用の軽装に着替えてから、急いで主の元へと参じた。
「御姫、お待たせいたしました」
「いちごさま、はたけしごとおつかれさまです。わざわざおでむかえいただき、もうしわけありません」
きっちり正座をしていた主が小さく頭を垂れる。それに合わせて長く艶やかな濡れ羽色の髪が肩から零れた。身に付けている薄水色の浴衣との対比が美しい。
「私の主は貴女なのですから当然の務めですよ、御姫。執務室へお運びしてもよろしいですかな?」
「おねがいいたします」
表情を変えず了承の意を返す主。そっと小さな身体を両腕で抱えて胸元に納めると、紅葉のような手のひらが所在無さげに宙をさ迷う。
「もしお嫌でなければ、私にお掴まりいただけますかな?その方が安心出来ますゆえ」
「…かしこまりました、いちごさま」
特に感情の見えない言葉だが、胸元の布地を握る幼児の手にはしっかり力が込められていた。抱えられ慣れていなくて怖いけれど、彼女は自分からどうしたいのかを口にしないのだ。
そもそも、この子は刀剣男士に何かを無償でされることをあまり好まない。
こうして抱えられて移動するのも御姫は不本意なのでしょうな。もっと、甘えて下さればいいのに…。
そう考えたら少しだけ体が重くなったように感じたが、気付かれないように主に笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、御姫。すぐに着きますよ」
微かな頷きを確認して私は執務室へと歩を進めた。

生まれてからずっと、彼女は神の花嫁改め供物として神々の意志には決して背かない教育をされてきた。そのため御姫は、自分の意志で何かをする、誰かからの言い付けに反発するということをなさらない。いや、反発するという選択肢すらないのだろう。また、年齢相応の甘えやわがままも一切見せて下さらない。私の弟たちよりも全然手がかからず、むしろ補助をなさっている。私達は主の力になるためにここへ顕現しているというのに。もっと、私を頼りにしてはいただけないのでしょうか…
そんなもどかしさを感じつつも、私は御姫にお仕えしているのです。

片手で主を抱え、反対の手で執務室の襖を開く。机に目を遣れば、既に今日の書類が種類別に並んでいた。蜂須賀殿のおかげですな。
「早速書面を確認いたしましょう」
「わかりました」
文机の前に置かれた座布団に腰を下ろし、胡座の上に御姫を座らせる。多少行儀は悪いのですが、これが一番安定するのです。
本来ならば審神者殿が一人で行うものですが、ここでは私が御姫と共にこなすのが常。難解な言葉などほとんどないようなのですが、やはり心配なものは心配なので。
私や蜂須賀殿の配慮を知ってか知らずか、時々は読み方や意味を尋ねて下さるようになりましたな。
書面から外へふと視線を送れば、昼下がりの穏やかな日差しが庭の花や木々に降り注いでいる。水をかけたばかりなので葉の上がキラキラと光を弾いた。歌仙殿の言葉を借りるのであれば『風流』なのでしょうな。
「御姫、」
外を見てくだされ、と言いかけてすぐに止めた。御姫は私にもたれ掛かっており、小さな肩が規則的に上下しているのだ。息を潜めれば、すぅ、すぅ、と消えてしまいそうな寝息を拾い上げる。
眠っていらっしゃる、のか…?
そう言えば今日は朝からご自分のお部屋を蜂須賀殿と大掃除なさったとか。それに加えて大太刀の石切丸殿も顕現なされておりましたな。
いくら神降ろしに慣れた家系の者だとしても、子供の彼女には負担が大きかったのであろう。
「お疲れのことにもっと早く気付くべきでしたな…」
かすれ声が頼りなく午後の光に溶ける。
「ゆっくりお休み下され、私の姫様」
滑らかな手触りの髪を撫でれば、強ばっていた身体から少し力が抜けたようだった。

おわり

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