夢の続きは貴方と共に

それは唐突に、朧気な形を持たずにやってくる。
気付けば私はどこかの和風家屋の中に居て、たくさんの男性や男の子達と生活しているのだ。寝食を共にするのはもちろんのこと、理由は分からないけれど、時々怪我を負って帰ってくる彼らを出迎え、手当てをした。普通は何ヵ月もかかるような重症も数時間、長くても1日ほどで治っていく。それが当然だった。
そんな不思議だらけの彼らだけれど、私にとっては家族同然で、とても心を許していたことだけは確かだった。
そんな中で、ただ一人私が家族として見られない人がいた。決して嫌いだった訳ではない。
彼の後ろ姿を見るだけで体が熱くなって、心臓がドキドキして、声が上擦った。話したいのに逃げたい。相反するのにその二つの感情が心の中に同居していた。
「おはよう。…あ、ちょっと待ってて。寝癖ついてるから、僕が整えてあげる」
貴方に髪をとかしてもらいたくて。
「大丈夫かい?君は女の子なんだから、重い荷物は僕に任せて」
貴方に女の子扱いされてみたくて。
「心配しなくても、君の料理はとても美味しいよ。作ってくれてありがとう」
貴方に手料理を誉めてほしくて。
「ほーら、そんなに泣かないで。僕はちゃんと君の所に帰って来ただろう?」
貴方に傷ついてほしくなくて。
「ごめんね、ありがとう、審神者ちゃん」
泣きそうな笑顔で私に微笑みかけてから、そっと抱き締めてくれる彼。
広くたくましい胸の中で、幸福感と悲壮感が入り乱れるのだ。何故、悲しむ必要があると言うのか、私には分からなかった。
そして、彼は一体何者なのか。
そんな単純な疑問さえも、夢の残滓となって意識から無くなっているのだった。

「…て、おーい、起きて審神者」
聞き慣れた声が遠くから私の名前を呼んでいる。気力を振り絞って目蓋を上げれば、遠慮がちに肩を揺すっているのは同じ学科の友達だった。途端に言い様のない虚しさが渦巻き、再び目を閉じる。
「眠いのは分かるけど、講義終わったから帰ろ?」
そこで一気に意識が覚醒する。そうだ、私講義受けてたのに…!
慌てて体を起こせば、教室からぞろぞろと学生達が退出し、黒板脇の教授も荷物片手にその場を後にするところだった。黒板?うっすら白くなっていて1文字も残ってませんが。
「うわー、やらかした」
「熟睡だったもんね」
「後で板書した部分見せて下さい」
「いーよ、私も審神者に見せてもらってるし」
「ありがとー!」
それから手早くノート類をまとめた私と友人は教室を出た。廊下の窓から外を見れば、すっかり空は夕焼けのオレンジに染まっている。無機質な床や壁にも優しい光が差し込み、1日の終わりを物語っているようだ。
遠くを見やれば、空の向こうで沈みかける太陽の黄金色に理由もなく悲しくなった。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、校舎の自動ドアをくぐったところで、友達が嬉しそうに声をあげる。
「そうだ!審神者、噂のイケメン見に行こうよ!」
「イケメン?誰それ?」
「あれ?ここ1週間くらいキャンパス内で噂になってるイケメンのこと知らない?」
「うん、全然」
「うっそ、マジで?」
彼女曰く。
今週に入ってから、最後の講義が終わる時間帯に正門にイケメンが立っている。
暗めの髪色で高身長、黒いスタイリッシュな車に乗っている。
誰かを待っている様子だが、時間が合わないのか待ち人が見つけられないのか単なる学校のOBなのかは分からないが、誰とも一緒に帰らずに去っている。
とのこと。
「へー」
「目の保養に行ってみようよ!」
「いいよー」
イケメンが居るにしろ居ないにしろ、私の部屋に行くには正門が一番近い。
「はい、決定」
その一言とほぼ同時に並んで歩き出す。メインの通りを進み、正面に正門が見える通りに曲がる。遠目に見てもはっきり分かる程、迎えやバスを待っていないであろう女子学生がたくさんいる。
当たりみたい!とテンションが上がった友人に手を引かれ、若干の人垣へと駆け寄る。少々きつめの香水が香るなか、爪先立ちで目的の人を目視。
彼自身の背がとても高いおかげで、姿を見るのは簡単だった。適度に整えられた落ち着いた髪色と、がっしりした身体を包むかっちりしたスーツ。飾り気のないものなのに彼の纏う空気のせいか、夕陽などの状況も相まってアンニュイな雰囲気が漂っている。
今はこっちに背を向けているけれど、噂の通り誰か待ち人がいるのか、時折出てくる学生に目を向けている。そして流れるような動作でこちらを向いた。
アシンメトリーにセットされた髪型に、目を怪我したのか眼帯をしている。何より印象的なのが、片方だけの瞳。陽光が閉じ込められたような、美しい金色の瞳が夕焼けの空を映して輝いている。
おお、正面から見てもイケメンだ。すると、まじまじと見ていたのに気付いたのか、不意に視線が交わった。途端に何の感情も乗せて居なかった男らしい顔立ちが、優しい笑みに変わる。
一気に空気がざわめきだした。
更にこちらへ歩いて来るものだから、私の前に居た女の子達が硬直している。そんなことされたら、目が合ったのは自分なんじゃないかと錯覚しそうになる。知り合いにあんな甘いマスクのイケメンなんかいないけど。
頭では分かっているのに魅力に抗える訳もなく、私も同じく固まって目が離せなくなっていた。
迷いなく真っ直ぐ進んできた彼が、前の女の子達に一言。
「君達の後ろにいる子とお話ししたいんだ。申し訳ないんだけれど、少しだけ道を開けてもらえるかい?」
暖かくどこか品格のある男性の声に、女の子達は無言で首を縦に振って左右に避ける。
彼との距離が、ほんの数十センチに縮まった。
あ、私も避けないと。
道をあけるために視線をそらして避けようとしたら、そっと手を包まれる。
えっ、なにこの展開。
驚いて大きな手のひらに握られた両手からその人の方へと顔を向ける。
至近距離で見つめ合うこと、僅か1秒。
「やっと見つけた。僕のお姫さま」
とろけるような微笑みと共に手の甲へと甘いキスが落とされた。

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