甘酸っぱい嘘つき

「あー、疲れた」
部屋着でぐったりと文机に寄りかかる。
短刀や脇差たちとの鍛練に少しだけ混ぜてもらったんだ。普段使っている武器は護身用の短刀で、木刀はほとんど使わない。
やっぱり使い慣れたのが一番だね。予想以上に間合いとか掴みにくかったよ…。
湯浴みも済ませてるし、このまま眠ってしまうのも選択肢の一つ。
「最近書類仕事ばっかりで全然体動かしてなかったからなぁ」
そのせいもあってか、今日は朝から少し調子が良くなかった。気持ち的な問題なんだろうけどね。
明日からはこれまで通りの量に戻るから、長時間机と向かいこともなくなる。
遠征の報告は受けたしー…、明日の予定組んだしー…
重くなった瞼を閉じて、日課を復唱していると。
「審神者ー、少しいいかー?」
部屋の外から突然声が投げかけられる。
「はいっ!?」
驚いて姿勢を正せば、さっきの声を許可と取ったのか、兼さんが部屋に入って来た。彼も私とと同じようにくつろいだ和装の部屋着姿だ。お香でも焚いたのか、なんだかいい香りがする。
「何か足りない備品でも出ましたか?」
「いや、そういう訳じゃなくてな」
首をかしげると、目の前に腰を下ろした兼さんは少し迷う仕草を見せた。
そういえば、さっきから何かを後ろ手に隠しているみたい。
光忠さんに内緒でお菓子でも持って来てくれたのかな?さっきから甘い香りがするし。
「兼さん、後ろに何を」
「っほらよ!」
後ろから勢いよく腕が差し出される。同時にふわり、と甘く芳しい香りが先程よりも強く広がった。目の前にオレンジ色の小さな花が集まって雲のように咲いている。秋になればよく見かける、可愛いらしい花だ。
「わぁ…!いい香り。このキンモクセイ、どうしたの?」
「遠征先でちょっとな。あー、その、く、国広が貰って来たんだよ。せっかくだからあんたにも見せようと思って持って来た」
「そのシーンイメージ出来る」
遠征先の時代で戦闘の被害を受けて半分折れてしまった木や、踏みつぶされてしまった草花がもあるのだろう。
話によれば、そんな時歌仙さんや堀川君が持ち帰って、本丸に飾っているそうだ。
「これは私がもらっても良いんですか?」
「他にもあったからな」
そう言って頭をそっと撫でてくれる。
「ふふ、ありがとうございます、兼さん」
心からの嬉しさと感謝を込めて笑顔でお礼を言えば、手を離した和泉守は得意げに笑い返す。
「いーってことよ。俺はただあんたが元気に、」
言いかけたところでハッとして口を噤む。みるみるうちに頬が赤くなって…、
「じゃ、じゃあ俺は寝るからな!」
一息に立ち上がった彼の背で美しい黒髪が波打って広がる。
その間から覗く耳が赤いのは、気のせいではないらしい。
「兼さん!本当にありがとうございます!」
少し足早に遠ざかる背中にもう一度礼をすれば、振り返らずにひらひらと手を振って彼は部屋を後にした。
「…花瓶、借りないとね」
小さく呟いた私はそっと太陽色の小花に顔を寄せた。


和泉守がわざわざ一枝だけ貰って来たという話を堀川から聞くのは、わずか数分後の事。


金木犀の花言葉:謙虚、真実の愛、陶酔
タイトル・確かに恋だった より

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