ギルベルト・バイルシュミット | ナノ

 月に恋して

初めて見たとき、彼は月のように美しかった。
光の具合で色味が変わって見える銀髪と赤紫の瞳。凛とした佇まい。力強いのに、今にも消えてなくなりそうな印象。

今思えば、一目惚れだったのかもしれない。




「なまえちゃんにはかっこ悪いところ見せてばっかりだな」
「大丈夫ですよ。カッコいいと思ったことは今のところないので」


素っ気なく返すのが精一杯。だって、毎日姿を見られるだけで十分すぎるほど幸せを感じていたんだもの。それ程遠い存在だったギルベルトさんと、今、並んで座っている。

「散々な言いようだな。これでも」
「彼女居るんだぜ?ですよね。もう耳にタコが出来るくらい聞いてますよー。気づいてないかもしれないですけど、相談に乗る度に言ってますからね!」

茶化すように笑って見せると、ギルベルトさんもいたずらっ子のように笑顔を返してくれる。
例え、話せるようになったきっかけが、サークルが同じ女友達の彼氏になったことだとしても。
私はギルベルトさんの隣にいることを辞めることなんて出来ない。


「…今だけ、少し甘えてもいいか?」

弱弱しい問いかけ。彼らしくないと、いつものギルベルトさんを見ている人は言うと思う。普段は自信に満ち溢れているようにしか見えない態度と発言ばかりするんだから。大体は根拠のない自信がある時ばっかりだけどね。

「私でいいなら、いくらでもどうぞ」
「そう、か…」

そっと伸ばした指先は、月に触れた。雲を掴むような事実を伝わる熱が否定する。

「後、少しだけ…このままで、いてくれ」

慈しむように、遠慮がちに握り返された手を、私は振り解くことが出来なかった。


これ以上、望んじゃいけない。これ以上、好きになっちゃいけない。
分かって、いるのに。



月に恋して


それでも私は貴方に逢いたいと…愛しい、と思ってしまうのです

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