V





目が覚めた時は、夕方なのか 自分が居る病室はオレンジ色と赤色を混ぜたような色に染まっていた。


どのくらい 眠っていたのか。


なんでこんな所に居るんだっけ…?



「っ」



ベッドから起き上がり、すぐに部屋を出る。

そうだ。土方はどうなった?



前方に看護士が見えて「土方は?」と聞くと、看護士は目を泳がせた。


「あ、土方…さんは……」



はやく教えろよ



「どこに居るんです?」



はやく

まさか、まさかじゃないよな?



「土方…さんは……1階の突き当たりの部屋に…。でも…」




生きてるのか。


看護士は話を続けようとしていたが 無視した。

『でも、』…何だ? まぁ、会えばわかる。


土方。


土方。



なんであの時、追い返してしまったんだろうか。



看護士に言われた部屋に飛び込んで、すぐにでも抱き締めたい。そう思う。


しかし、土方が寝てるベッドを数人の医師が囲んでいた。



死んで…ないよな…?



「ひじ…かた…?」


小さく呟く。


医師が一斉に俺を見た。



「坂田さん…」


「先生…土方…は?」


「…大丈夫。健康上問題ない」



そう言われて医師の間を覗けば、土方がベッドの上に起き上がっているのが見えた。

身体の力が抜ける。



「よかった…」


「だが、すまない。記憶をなくしたみたいなんだ…」



きおく?



「……十分だ…よ…。生きてるだけでいい。記憶なんて無理やりにでも思い出させてやるし」



そうだよ。



「経験者だからねっ…俺は…」



でも、何を言っても、声が震えた。


病室が静まり返る。



「先生…あれ、2人に……してくれねーか?」


「………わかった。無理はさせないでくれ。そして、彼の名前はフルネームで呼ぶように」


「わかった」



医師は土方に向いた。



「この人は坂田さんだ。色々聞くといい。我々より君のことを知っているだろう」



虚ろな目で医師を見ていた土方の身体が、ピクリと跳ねた。


「さ、かた?」



蚊の鳴くように小さい声。


何か思い出せるのかと 皆が息をのむ。



「ぎ、とき…。銀時…」


「な、んだよ…思い出したのか?」


「土方十四郎さん。何か思い出せましたか?」








土方の目から、涙がこぼれた。







「1つだけ…知ってる」




心臓が、ドクリと跳ねた。



「俺、惚れて…た」



己に確かめるように土方は言う。
医師も俺も 誰も口を開かなかった。




「惚れて…た……。男に……、あいつの、すべてに…」





これはすぐに記憶が回復するんじゃないかと期待した。







だが、それは一気に崩された。








「俺は…もう……生きて…いけねぇ…」





何を言ってるのか 一瞬わからない。


何でそうなる?





医師は土方を落ち着かせようと動いた。



土方は、身体を震わせながら言った。








「惚れた男が、死んだんだ」





何で…






「さか…た 銀時が…」








何で…







「ま、てよ…土方っ!俺は生きてる!!嘘だよ!!!俺は生きてる!!!」


「坂田さん!」



医師が俺に 落ち着けと叫んだ。そして 土方に俺が見えるように避け、「この人に…覚えは?」と聞いた。







「知らない」







何で…








「俺、は…坂田銀時だ」


「さか…?」


「あぁ…坂田銀時だ」


「銀時…が…死んだ……」


「俺は死んでねぇって言ってんだろ?!今ここに居るじゃねーか!!!」


「お前…誰だ?」






まるで、狂ったみたいだ。


そう思った。






「銀時が、死んだ」







何で、くだらねーことばっか覚えてんだよ。





「生きてる。俺が銀時だ」






バカだろ





「だから、死んだって言ってんだろ!」



焦る。






「じゃぁ…俺は何なんだ?身分証見せてやろうか?」


「知らねー…。お前があいつと同じ名前だったとしても、俺の銀時は死んだんだよ!……お前は……」







情けなく、



涙を流しながら、






「お前は…… 俺が惚れたやつじゃねぇ!!!!」






残酷に、





あれだけ、昨日まで 鬱陶しいほど 愛を囁いてきた男が、





全く逆の言葉を、叫んだ。








「もう、1人にしてくれ!」




もう、言われた通りにするしかなかった。








【次#】


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