V
新八と神楽と別れると、いつの間にか土方が居なくなっていた。
まぁ、あれだけの時間 ああしてほっといたんだから仕方ない。もしかしたら、もういいということだろうか。
何にせよ、土方が居ないのは確かだ。勝手にしようか。
でも、逃げただなんだ言われるのも面倒だから、念のため辺りを見渡すと、後ろから土方の声が聞こえた。
「銀時!話が終わったならそこで待ってろ!」
居た。最悪だ。
振り返って文句を言おうと思ったら、土方は建物の裏に入って行った。
はっとして俺も土方の後を追う。
道を進むに連れて、
血のにおいがした。
「土方っ!!」
目に映ったのは、5人の血まみれの死体と、腕を押さえ、地面に座って怯える男。
そして、その男に刀を向ける土方。
すぐにそこに割り込むと、土方は驚いて、それから、俺を睨みつけた。
「銀時…どういうつもりだ…?」
「………」
「そいつは過激派攘夷の一人なんだよ!今のお前には 理解できねーかもしれねぇが、こいつらはテロを起こして、天人だけでなく一般市民にまで…」
「わかってるよ!」
「わからねぇだろっ!どいてろ!」
「嫌だ」
土方が一層俺を睨みつけ、後ろで男が 気がついたように逃げて行くのがわかった。
「銀時…わからないじゃぁ…許されねぇぞ…」
「そんなに人を斬るのが好きか…」
「お前に言われたくねーなぁ…」
「は?」
「天人を見るたび、斬ってたんじゃねーかよ!そうしねぇと一般市民に機外が及ぶからってよぉ…」
「っ!!」
「人間だから斬れねぇか…?同じ人間だから可哀想とか?随分だな。お前の今の行動が、誰かの命を奪うかもしれねぇのに…」
「…」
「今の世の中、お前が知ってんのと逆なんだよ…」
「うるせーよ…」
確かに、逆。
間違ってる。
全部がだ。
「抜け…」
「は?」
「お前は過激派につく可能性が高い」
「ちょっと…待てよ!」
「お前も俺を殺したいんじゃないのか?やり合う理由だってあるだろ?」
「っ…」
「俺は、お前の仲間を斬る…お前の大嫌いな幕府の犬だ。過激派じゃない…今は穏健派になりつつある桂小太郎もな…」
土方が数歩離れた。
「抜け」
こいつが居なくなれば……。
でも、こいつが死んだら……。
この時代は、俺が知る逆。
わかってる。
こいつは必要。
でも、今抜かないと止まりそうにない。
なら、武器を壊せばいいじゃないか。
土方が一歩踏み出すのを合図に出ると、呆気なく刀を折ることができた。
「…もう、いいだろ…。もう、わかったから…邪魔して…悪かった。もう…邪魔しない…。捕まえるなり、好きにしろよ」
また、考えよう。ここで今考えられない。
反抗なんて、ばかばかしい。
土方は折れた刀を見つめながら、鼻で笑った。
「悪い…そんな…せめるつもりじゃなかったんだ…」
「え…?」
「なぁ、…どう思う?」
「なに…が?」
「お前は……なんで…そうなんだ?」
「え?」
「なんで斬らないんだ?」
「…土方…」
「……白夜叉と呼ばれるほどのお前が、…大嫌いな幕府の人間で……テメェよりずっと弱い…しかも同じ男に掘られて、喘がされる……」
「………」
「どんな気分だったんだ?」
「…そんなの……」
「仲間を斬った後かもしれねぇ手に抱かれるって……どんな気分だったんだ?」
「……知らな…」
「知らねぇか…?あぁ、一昨日も昨日も無理やりだったもんな」
「…聞いても仕方ないだろ……」
「俺は、知りたかった…。ずっと、目を背けてきちまったが…」
こいつは…。
「何なんだよお前……俺にどうして欲しいんだよ……」
「……思い出して、教えて欲しい。お前は、俺との関係を…セフレとか…思ってたんだろう?……それは、ずっと屈辱で…負担でしかなかったのか…」
「くつ…じょく……」
「そうだったなら、お前が……そう言うなら、もう顔を見せない…」
屈辱…。
こいつは、ずっと…
ずっと、それを気にして、
苦しんでいたのか?
「何で……ただの……お前は、……っ……なんで…悩んでまで…」
乱される。
「そんなに…つらいなら…やめれば良かっただろ…?」
女には困らないような、顔も、性格も完璧なのに。
「やめたら、離れてく気がしてたんだよ…」
なんだろう。
なんで、こんな馬鹿な男に、愛おしさを感じるんだろうか。
「手放したく…なかった……。そうなるくらいなら…殺して…欲しかった……」
だから、さっき、腹立たせるようなことを言ってきたのか?
色々とムカついた時があったけど、ただ不器用なだけ…?
「ずっと…屈辱だとか、嫌いだとか…言われるのが…怖かったのか…?」
「悪いかよ…」
「ははっ、即答」
愛しくて、憎い。
「なぁ……、土方…もし、もし、俺の記憶の中で…、…心の中で……」
愛しく思っているのは、誰だ?
なんで?
わからない。
仲間を斬るかもしれない男で、体格も同じな男に、何故………?
わかる必要がない。
どうでもいい。
「お前のことを、愛しく思ってたら……どうする…?」
この世界のルールは、土方が言うことが正しくて、俺が間違ってる。
もう、それでいい。
「屈辱…じゃ、なかった。でも…愛しく思ったら、負けだと思って……。怖くて…。屈辱とか…嫌いとか…思わなくなるくらい……愛しく思ってたって……言ったら、どうする…?」
何でこんなことを口にしたのか。
でも、止まらない。
「俺…は、お前が知ってる俺じゃない……。二、三日前にはじめて会ったやつを、記憶の奥がなんだ言っても…ピンとこない…」
「ぎんとき…?」
「それでもいいなら…」
この男を求める理由が、浮かんでは消える。
性的な気分、
屈辱かどうかの確認、
愛しさ。
どう口に出せばいいのか。
「なぁ、俺を…抱いて…?」
この男に殺された仲間への大きな裏切りは、どうしようか。
そんな罪悪感も、あまりに嬉しそうな顔をするもんだから、少し後回しにしてもいいと思った。
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