嘘吐き




『月が綺麗だね』

俺はあの時、先生から聞いた言葉を今でも覚えてるよ。

ほら、今日も空を見上げる。




――嘘吐き――




全身真っ赤、と言っても過言ではない。
髪の毛も返り血が固まっている。

早く風呂に入りたい。
重たい身体を引きずり、高杉とかがいる(はずの)隠れ家へ向かう。


そこに着くと、しんと静まっていた。
まだ、誰も帰っていないのだろうか。

風呂を沸かしてもらおうと思っていたのに。

ぶつぶつと文句を言いながら風呂場に入り、服を脱ぐ。
手拭いを水で濡らし身体を拭く。
自分で沸かすのは面倒なので。


真っ白な手拭いが赤へと染まる。
髪を拭いたら一発でこれだ。

それを洗い、また拭く。
水が冷たく、身震いをする。

我慢して身体を拭き続ける。
風邪を引きそうだったが気にしない。

こんな血塗れより、ましだ。

そう思い、拭き続ける。

だいたいの血は落ちたところで、ふと空を見る。

三日月もないし、満月でもない。
しかし、綺麗に月が上がっていた。


『月が綺麗だね』

あの時と同じだ。




手を繋いで、夜空の下。
少し肌寒い夜だった。

満天に広がる星に、大きく光を放つ月。
満月よりも綺麗だ。

急に立ち止まり、空を見上げる俺を先生はおもしろそうに見ていた。


『綺麗ですか』
『うん』
『月が綺麗ですね』
『俺も思う』
『空は好きですか』
『うん』
『では、これから毎日見ましょうね』
『約束だよ』
『ええ、約束です』




身震いをし、はっとなる。
余計な事まで思い出してしまった。


俺は手拭いで顔を拭く。
違和感。

泣いているようだ。







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