それに気がついたのは、しばらくどうすればいいか必死に考えてた時。


また、先生が口を開いた。


でも その時俺は先生に声をかけることもできてなかったし、ただ横から抱きしめていただけだった。


何が反応させるのか。


また、先生に耳を傾ける。



「だ…か…いま…か?」



誰かいますか。



伝言を頼みたい。



今はもう歳を重ねて大人になった、私の教え子へーーーーー。





今、なんて言った?





「な…も…いち…ば…あや…り…たい…は」




待て。



待て待て待て待て。





それは、




先程言ったことと、全く同じ内容だった。







身体が、魂が、引き裂かれるような感覚がした。






「せ、んせ…やめろよ…!さっきも言ってたじゃねーか!!」



叫んでも、聞こえてない。
口を動かし続ける。




耳は聞こえない。


目は見えてない。


感じてない。




なのに、何度もこうして話はじめる。




まさかと思った。




最後まで、先程と同じことを言った。




そして同じところで口を止める。





先生は、感覚器官を失ってから 誰かがもし来た時の為にずっと同じことを言っていた。





「も…、いいよ…」





どうすることもできない。


先生は、もう壊れたんだと思った。


連れ帰ることもできない。




枷がついた足を切ってでも連れ帰りたい。

でも、連れ帰るまでに死ぬ。


足を切ってここで処置すればいい。

連れて帰っても同じではないのか。




連れて帰っても助からない。




このままでも殺される。




死ぬーーー。




また、先生が口を開く。




やめろと言っているのに。




また同じ言葉を。





もう、いい。




どうせ、死ぬのならば、



先生、




「おい!!銀時!何してんだ?!」




立ち上がり刀を先生に向けた途端、後ろで声がした。
土方の声だ。

関係ない。

銀時銀時と叫びながら、土方が刀を持った俺の腕を掴む。


邪魔すんな。


「ひじ…かたか…」


馬鹿みたいに必死な顔で俺を見る。俺は土方の腰にある刀に目が行った。



これなら、斬れる。



「刀貸してくれよ。これじゃ斬れない」



こっちの刀じゃぁ、ヒビがはえてるし上手く斬れないんだ。



「やめろ!!しっかりしろよ!」


わかってないくせに。


「うるせぇ!!はやくしろよ!!」


「こいつが松陽先生だろうが!!お前が会いたがってた!」


「耳は聞こえてない…。目は見えてない…。感覚すべてない……足枷には何かしかけがしてある…」


「銀時…」



なぁ、土方…



「どうせ死刑に、なるんだろ…?」



俺はお前に感謝してるよ。



「でも口が動いたじゃねぇか!反応したんじゃないのか?!それなのに…」



他人のことで必死になってくれたんだから。



「毎日おんなじこと言ってんだよ!!」


「……は…?」


「昨日の晩に…ここに来た…。俺もはじめは…そう思ったけど…しばらくしたら同じこと言ってんだよ!!」



先生の口から手を離すと、先生の血で濡れていた。

松陽先生は喉をついに切った。



「寒さと、乾きの中で…ずっと言ってるから…」



もう、やめようよ先生。



「何回も何回も…くだらないことを言ってたんだ…昔俺たちにした小さなことを謝りたいって…別に、誰も気にしてなかったっていうのに……俺たちへの伝言を頼んでるんだ。目の前にいるのに…」


「銀時」




死ぬ。




「んな顔すんなよ…。未来と違う?…俺には関係ない」




これが、幕府の天人のやり方だというのなら…。


この先、その下で生きねばならないというのなら。



「こんな世界、いらない」



いらない。


先生がそれを望んでなかったとしても。



大丈夫。高杉と桂にはそんなことさせない。




「な、に言ってんだ…」



そんな顔すんなよ。



「土方、苦しい?」



お前のその、シナリオ通りに行かないような様が気に入らない。



「そんなに苦しいなら、お前も」



さようなら。



「死んでいいよ」




ほんのちょっと、お前とこの先ずっと居たかったよ。









【次#】

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