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どれくらいの間、こうしていたのかわからない。
でも、
「…れか…」
微かに、また声がした。
「…ま…すか…」
どうすればいいか、どう返事をすればいいか。
口をパクパクとさせても上手くでこなくて、先生の声を必死に聞いた。
先生は掠れた小さな声で、こう言った。
誰かいますか?
伝言を頼みたい。
今はもう歳を重ねて大人になった私の教え子へ。
あまりよく聞こえなかったが、確かにそう言っていた。
止めようとしても止まらない自分の嗚咽で途中があまりよく聞こえない。
中でも一番謝りたいのが 小太郎と晋助と、銀時だと松陽先生が言った。
その時はじめて声が出て、先生に俺がここに居ることを叫ぶ。
でも、先生は話続けた。
先生が謝りたかったこと。
それは、先生がいなくなる2ヶ月ほど前、家族の日のことだった。
俺と高杉と桂の三人で先生にプレゼントをそれぞれしたんだ。
家族だと言ってもいいのか不安だった。でも、桂は血の繋がりだけが家族でないと言ってくれたし、高杉は喜ばせる自信ないのか?とププっと笑って…、二人で背中を押してくれた。
きっと喜ぶ。
三人で同じことを思った。
でも、先生は喜ぶどころか 怒ったんだ。
本当の家族がいるのに、って。
桂や高杉だけでなく俺にも。
だから俺たちは 先生にプレゼントを同時に投げつけて部屋を飛び出した。
俺はその時、
先生なんか大嫌いだと言った。
先生はそれを謝りたかったと、声を震わせて言った。
本当はうれしかったんだって。でも、自分は家族になれるほどの人間でないって。
「ば…かだな…、っ…」
馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ。
「そんなの…知ってる…よ…だって先生…その後…森の木下に寝てる俺たちの頭を…撫でてくれたじゃないか…」
ふて腐れた俺たちを探して。
「起きてたんだよ…桂も高杉もっ…」
謝らなければならないのは、俺の方だ。
「その…時…先生が…言った言葉も…知ってる…」
思い出させないでよ先生。
「ありがとうって…。先生…泣いてたの…知ってるよ」
余計に愛しくなるのに。
頼むから、
他の言葉は聞こえなくていい。
だから、この言葉だけは聞こえてほしい。
「大嫌いなんて 嘘なんだ…」
大嫌いなんて思うわけがない。
「嘘、ついて…ご、めん…なさ…」
俺が話をしても、先生はそれが聞こえてないように、上から言葉を被せた。
お願いします。
坂田銀時と、高杉晋助と、桂小太郎に。と。
「先生…大好きなんだ…」
先生はまた口を開かなくなった。
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