はじめは誰だかわからなかった。


だって、声はもちろん 顔も何も、俺が知る相手とは違ったから。




ボロボロの薄い着物。



乱れ、雑に切られた短い髪。



腫れ上がった肌に切り傷が痛々しい。




これが、あの人であるはずがない。




そんな…。




でも、微かに動くその口から出る掠れた声が 俺の名を呼んだ。



俺の名前を知ってるやつなんて僅かだった。



多分、それを聞いた瞬間俺は腹から叫んだと思う。




立っていられなくなって、その場に座り込む。



身体が震える。




「…を…、つたえ…くだ…い…」




待って…。




「せ…っ!たす…けに来たんだ!!」



「おね…が…い…ま…」



「先生っ!松陽先生!!帰るんだよ!伝言なんて…」



「…ぎ…き…と…、たか…」



怖い。



「銀時なら俺だよ…。わからないかも知れないけどっ」




なんで、目の前にいるのにわからない?



なんで、こんなに叫んでるのに反応がない?







「なぜ、何も言わない…?」








先生の口が、閉じた。








足が立たなくて、震えが止まらない。


違う。


松陽先生は死なない。土方も言ってたじゃないか。


手を伸ばして刀で鍵を壊した。同時に使い古した刀にヒビが入った。


身体を引きずり、松陽先生の元に行くけど、反応がない。







松陽先生は生きてた。






でも、


目は見えてなくて…


耳も聞こえてなくて…


感覚もなかった。





身体が、氷のように冷たかった。





まるで、




死体みたいに。









次#

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -