叶わない夢…*
2010/11/27 18:00
松陽先生がいなくなった後の話。
新八たちと出会う前。
―――――――――
元はどんな建物だったのかわからない家。
昨日まで松陽先生が学問を教えて、俺たちが学んでた場所。俺と松陽先生が一緒に暮らしてた場所。
そこに、先生から貰った刀を刺した。多分、このへんが先生の部屋。
物音がして振り返ると高杉が立っていた。
「使わないのか?」
「…………」
「松陽先生がお前にくれた刀だろ?」
高杉は松陽先生のことを好いていたのに文句の1つない。泣き腫らした様子もない。
「使い方が…わからないんだ…」
「使い方?」
「うん」
わからない。
何を護ればいいのか。何を斬ればいいのか。
これを汚したくない。まだ、先生に教えてもらってないことが沢山ある。
廃刀令が出ると噂があったから 馬鹿だと言われると思えば、高杉は「そっか」と小さく返事した。
「何も言わないのか?」
あまりに優しいから問いかけてみる。
「…別に。先生が死んだわけじゃない」
「でも…俺のせいでみんな戦争に参加することになった」
「俺と桂とお前以外は強制されてない。他は自分たちの意思だ」
「…」
「お前の責任じゃねーよ。元々攘夷戦争で力になるために村塾に入ったんだ。国だなんだ意味のわからない物を護るより、大切な人を護る方がやり甲斐がある」
高杉が突然、何か考えて動き出した。
さっき刺した刀を抜いて、俺の前に突き出す。
「なに?」
「やっぱり持ってろ」
「は?」
「雨が降って濡れたら錆びて使えなくなる。松陽先生が帰って来た時、教えてもらう前に錆びて抜けなかったらお笑いだろ」
「あ、あぁ…」
少し、何か、どこか安心を覚える。
「銀時は理想とかあるか?」
「りそう?」
「あぁ、夢とか」
「ある」
理想、夢、
「なんだ?」
「お前は?高杉から言えよ」
高杉は恥ずかしそうにもしないで、ゆっくり語りだした。
攘夷戦争が終わって、松陽先生が帰って来て、みんなでまた暮らすことを。
またみんなで、それぞれの所帯を持つまで暮らす。
「ズラと高杉は…一生結婚できそうにないよな」
「はぁ?それを言うならお前もだろ」
「松陽先生から当分離れそうにないからな」
「そうだな」
毎日喧嘩になるんだ。
松陽先生の取り合いで。
4人いるから働けば広い家に住める。
帰って、みんないて、笑って。つらくて泣くなんて絶対ない。
女ができて、お前はまだできないのか、とか からかいあって。
幸せで。
そんなことを話し合った。
「理想高いな…チビ杉のくせに」
「現実になることを言ったまでだよ!そん時には背も伸びてる」
高杉は、本当に優しいやつだった。
優しすぎた。
――――――――――
―――――――
ガタッと大きな音がして目を開けると真っ暗。どこかの自動販売機の中に頭を突っ込んでいた。
「嫌な夢みちまった…」
戦争で仲間が死ぬ夢よりも、嫌だ。俺の嫌いな夢ランキング上位だねこれは。
攘夷戦争が終わってからの理想は、松陽先生が帰ってきて、みんなで暮らすこと。
少なくとも4人で、暮らすこと。
毎日、先生の取り合いで喧嘩になる。
浮かぶよ。いくらでも。
でも、……
「ただいま」
一人にしては、少し広い家。
「帰って、みんないて、笑って…あと…」
喧嘩する相手も、取り合う人も、誰もいない。
「あぁ、もっと酔うまで飲めばよかったんだ……」
『銀時は理想とかあるか?』
end
*コメント(0)*
前へ | 次へ