拾いもの。4 *
2011/03/29 12:42
目を覚ますと全く知らない部屋にいた。
なんでここにいるんだ?
身体がだるいし重い。
ぼーっとしていると頭の下にひんやりとした物を感じた。多分、氷枕だろう。
深く息を吐き出したと同時に襖が開く音がして、現れた人間を見て思い出した。
「てめぇ…」
「起きたかゲロやろー」
「誰がゲロだ!」
「お前だよ!!床に撒き散らした挙げ句頭から倒れやがて…誰が処理したと思ってんだ?」
言われて見れば着物が違う上、髪が少し濡れていた。
万事屋は俺の隣にゆっくりと座り、鍋に入った何かを皿によそって「ん、」と差し出した。
「なんだ?」
「見てわかんねー?お粥だよ」
「そうじゃなくて…なんでお前が…」
「いいから食えよ。腹減ってんだろ?」
「…………まよ…」
「ああ?」
「マヨネーズかけてくれ…」
毒が入ってるとは考えにくい状況だった。腹も減ってるのも確かだし。素直にそう言うと、万事屋は明らかに不満そうに溜息を吐き、部屋を出た。
そして冷めた目でお粥の上にマヨネーズをかける。
ぐーっと。
ガキみたいな顔をして。
マヨネーズのケースが空になるまで。
「おらよ」
呆気にとられる。
なんで知ってんだ?
いや、こいつのことだから俺が嫌がると思ってやったんだろう。現に「食えるもんなら食ってみやがれ。マヨネーズ好きなんだろ?」と言いそうな顔をしていた。
逆効果だっての。
思わず顔が緩む。
差し出された器を手にとり、口に運んでいく。
正直、マヨネーズとか関係なくうまかった。
すると突然スプーンを持つ手を掴まれた。
「お、お前 何してんの?無理して食うなよ。悪かったよ…銀さん悪ふざけしすぎた!まかさお前がこんな優しいやつだとは思わなかったわ…」
「何言ってんだ?俺はこれくらいがいいんだよ」
「いや。無理すんなってのっ!」
「いや、俺はこのくらいがいいんだよ」
「いや、無理すんな」
「ちょっ、あぶねーから力入れん…」
あっ。
ベチャッ。
万事屋に勢いよく引っ張られた拍子に体が倒れて、気がつけば銀時の肩に皿をひっくり返していた。
「いっ…て…」
「わ、悪い」
痛い?
もしかしたら火傷したかもしれない。
咄嗟に万事屋の服をめくり、お粥がかかった部分を借りた着物の裾で拭き取ろうと手を伸ばす。
「ちが、そっちじゃねーよバカっ」
「あっ」
押し倒した拍子にもう片方の肩を抑えつけていた。
こっちは確か、前に俺が斬った方だ。
「すまねぇ…」
急いで手を離せば、万事屋が鼻で笑った。
「なんだ…?」
「お前さ…俺が怖いの?」
「ああ?」
「いや、さっきから謝ってばっかだし…」
「謝るのが当たり前な状況だろ」
「粥も無理して食うし」
「俺はあれくらいがよかったんだって何度も言ってんだろ!」
「目、覚めてから一回も合わせないし」
「それは…」
一瞬、
夢を思い出した。
この男の鬼のような目。
無意識のうちに俺は確かに目を合わせていなかった。
怖い?
俺がこいつを怖がる?
たかが夢だろ?
たかが夢。
たかが夢。
「はやくどいてくんねぇ?肩、熱いし」
たかが夢だ。
簡単に押し倒されてる男を怖がる必要はない。
ゆっくりと万事屋に目を合わせると、今度は万事屋が目をそらした。
「俺はお前を怖がってなんかいねぇよ」
お前だって合わそうとしねぇじゃねーか。
あとなんだっけ…
粥か。
「要するに全部食えばよかったんだろ?」
冷静に目を向けた万事屋の肩。先程着物をめくった肌は白く、粥がかかった着物の下は 熱に薄い桃色に染まっていた。
胸や首筋に飛び散ったままの状態に 思わず息をのむ。
思考が停止して、粥を食えばいい。俺はそれをしているだけだと己の為の言い訳をした。
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