私の朝の日課は愛する旦那様を起こす事から始まる
「ほら、シズちゃん起きて。朝だよ、遅刻したらトムさんに怒られちゃうよ?」
「ん…あぁ、あと5分…」
「もう、早く起きて!」
私の旦那様の名前は平和島静雄
池袋最強と謳われる人だ
私の名前は折原臨也
私の両親はネーミングセンスが独特な人達だ
「んー、おはよう臨也」
「おはよう、シズちゃん」
そう言って私達は触れるだけのキスをする
結婚式はシズちゃんが嫌がったからしなかったけどそんな事は全然関係ない
シズちゃんと一緒に住むだけで毎日が幸せだから
「今日は少し遅くなるぞ」
「んー、分かった。夜御飯はどうする?」
準備を済まして玄関でシズちゃんを見送る「要らねぇ。それより、俺が帰るまで起きとけよ」
「いいけど…、なんで?」
「…大事な話がある」
神妙な面持ちで語るシズちゃん
「…な、なんて顔してるの、もー早くいかないと!」
「あぁ、そうだな。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
笑顔でシズちゃんに手を振った
でも心の中ではシズちゃんの言葉が引っかかっていた
(離婚話ならどうしよう…)
不安がよぎる
「こんな事考えてないで仕事、仕事」
わざと明るくいい自分を奮い立たせた
***
-ガチャ-
「ただいま」
「……え、もうそんな時間?」
シズちゃんが仕事に行ってから私は洗い物をしていた
今まで
実に13時間も
立ちっぱなしで
すぐさまシズちゃんを迎えに行く
「おかえり、疲れたよね。ちょっと待ってて、直ぐにお風呂沸かすから」
「待て」
シズちゃんは私の腕を掴んで引き留めた
「な、何?」
おずおずと聞く
「取り敢えず、リビングに行くか」
「う、うん…」
心臓がどくどくと煩い
(シズちゃんが…怖い)
無意識にそう思った
「座れよ」
「うん…」
シズちゃんと向き合う様な形でソファーに座る
「……」
「………」
2人とも喋らない
時間だけが過ぎていく
そして
「…臨也」
シズちゃんは口を開いた
「な、何かな?」
「実は…」
「あ、洗濯が出来て無かったの?ごめんね、これからはしっかりするからね。もしかして夜御飯が美味しくなかったとか?もっと料理の勉強するから今は我慢してね、それから「臨也」
シズちゃんは私の名前を呼んだ
もう逃げられない
「臨也、手前は女じゃねぇんだ」
「え?」
唐突だった
それより、
「私は女だよ?」
シズちゃんが何を言っているか分からなかった
「だって、シズちゃんと結婚したじゃん、婚姻届出したって」
「これの事だろ?」
シズちゃんのバーテン服の内ポケットから出てきたのは市役所に出した筈の婚姻届だった
「なん…で?」
「日本じゃ男同士は結婚出来ねぇからだよ」
「それじゃ私が女じゃないみたいじゃない!」
私は叫ぶ
まるで真実を言って欲しくない駄々っ子の様に
「じゃあ、今までどうゆう気持ちで私を抱いてきたの?可哀想とか思ってたの?だから何時も私を抱いた後にこっそり泣いてたの?どうなのっ!…どうなのよ…」
最後の言葉を言い終わる前に涙が落ちていた
「俺は、手前が好きだから、手前に傷付いて欲しくなくて…」
「言い訳なんて聞きたくない!…っ、聞きたくないよぉ…」
後から後から涙が出てくる
悔しさとか惨めさとかの前にシズちゃんが私に嘘をついてた事が一番心に重くのし掛かった
「いざ…」
「出てってよ!お願いだから私の前に現れないでっ!!」
「それで気が済むなら…。それじゃあな」そう言ってシズちゃんは出ていった
「うあぁあぁあぁ!」
私は泣いた
ひたすらに泣いた
ベッドにしがみつくように
そこにシズちゃんの温もりがあるような気がして
END
分かりにくいですが臨也は自分が女だと思っていたと云う話です
加筆:20110904.