黄昏時に逢いましょう | ナノ





・切ない
・静(→)←臨


黄昏時に逢いましょう


来神高校を卒業して早5年。俺はとあるホテルに来ていた。

「やぁ臨也!久しぶりじゃないか!元気にしてたか…って聞かなくても分かるけどね」

背後から俺に声が掛けられる。振り向くと声の主はにこにこしながら此方へ歩み寄って来た。

「どうせ新羅だろうとは思ってたけど。やあ新羅。首無しとはまだ続いているのか?」
「どうせとはなんだいどうせとは。久しぶりの再会なのにさ。セルティ?勿論だよ!ちょっと臨也聞いてくれないか!実は最近セルティにプロポーズしたんだけどその返事が…」

白衣姿に四角く黒いフレームの眼鏡、新羅は相変わらずで思わず笑みが零れると、何笑ってるんだい?気持ち悪い。と新羅に軽蔑の目で見られてしまった。

「いや、新羅はあの頃と然程変わり無いなと思ってね」

「僕だって変わるさ。ほら」

変わり無いと言った俺の言葉に少しむすっとしながら右手を見せてくる。その指にははきらきらと銀に輝く物が嵌まっていた。

「新羅、君は何時から結婚したんだ?俺の情報には無いけど」
「結婚はしてないよ。エンゲージリングだよ。実は5日前に言ったんだ、結婚して下さいってそしたらオッケーだったんだよ!」

新羅の言葉に少し驚き目を見開いた。まさかあの首無しに婚約を申し込み、OKを貰えたなんて。それに、あれ程変わり無い新羅にも変化があったなんて臨也は訳の解らないショックを受けていた。新羅は嬉々とした顔で尚も語っていたがふと嬉々とした表情を隠すと至極真面目な顔をした。


「…、臨也。君は変わったのかな?あの頃から」


「それは…」
本当新羅は痛いところを突いてくる。俺は答えようとした。この同窓会に来た意味を、しかしそれはある人物によって阻まれた。

「よぉ、臨也じゃねえか。それに新羅もいるのか」

「シズちゃん…」
シズちゃんはゆったりとした足取りで俺達に近寄ってくる。今すぐ逃げ出したくなる気持ちをぐっと圧し殺し、ちらりと彼の顔を見た。5年前より穏やかな顔をしていた。

「静雄じゃないか!久しぶりだね、静雄の事だし呼んで貰えないのかと思っていたよ」
「岸谷、手前は相変わらず減らず口だな。殴られてぇか?」
「冗談、冗談。本気にしないでよ。あはは、本当にごめんなさい」

シズちゃんは新羅を僅か1秒で立っている所から土下座する所までやらせた。いや、正確には新羅が勝手にしていた。胸の前で固めた拳をゆっくりとした動きで直す。その姿を見ていた新羅は立ち上がり膝をぱんぱんと払った。

「殴るわけねぇだろ。俺だってちったあ大人になってる」
「静雄の冗談は伝わりにくいなぁ」

シズちゃんと新羅はお互い話し始めた。その2人の近くに立つ俺は蚊帳の外。ドタちんは予定が付かず欠席。少し孤独感を感じ始めた頃、シズちゃんから話し掛けてきた。

「よぉ、久しぶりだな」
「シズちゃん本当久しぶり、えっと…5年振りだね」

ぎこちなく喋るシズちゃんに釣られて何時もならすらすら出てくる言葉は喉に突っ掛かってしまう。

「あぁ、そうだな。…っと、岸谷」

シズちゃんは新羅に目配せさせると、ちょっと席を立たせて貰うよ。と新羅が席を立ち去る。2人きりで気まずくなり目を伏せていた。その永遠とも思える一瞬の時を切り裂いたのはシズちゃんだった。

「臨也」
「な、何かな?」

少し裏返った声に内心舌打ちをする。シズちゃんの声はゆったりと聴いていて心地好い声音だ。

「好きな人、出来たか?」

新羅といいシズちゃんといい、何故これ程まで的を射るのかと少し関心したほどだ。俺はそこまで危なっかしいものなのか、と思ってしまった。

「出来ないよ、当たり前じゃないか。だって…っ」

そこからは言葉が詰まった。うっすらと膜がはりぼやける視界に震える声。俺はこんなにもシズちゃんに再会するのを楽しみとして、そしてこんなにも再会するのが怖かったのか。目に張った膜は雫となって落ちようとした。それをシズちゃんが掬ってくれる。

「泣くな」
優しく俺を宥めるシズちゃんは昔と同じで…。俺は心の隅で期待してしまう。あの頃には戻れないのに、唇は動く。

「し、シズちゃ…、やり、っ、直そ…?」
嗚咽で途切れ途切れになってしまった。シズちゃんの胸板にぽすんと頭を預ける。震える俺の肩にシズちゃんは手を乗せた。

「…、臨也、それは無理だ。手前だって知ってるだろ?俺には彼女がいるんだよ」
「うん…、知ってるさ、俺を誰だと思ってるの?情報屋の折原臨也だよ?…シズちゃんを困らせたかっただけ」

盗み見たシズちゃんの顔は辛そうでどこか悲しそうだった。俺はいつものフレーズをシズちゃんに言い、虚実を交えた。全くの嘘でなく、5割が本音の嘘。俺の言葉を聞いたシズちゃんはそうか、と言って柔らかく微笑んだ。その笑みは俺に向けたものか、それとも…。

「それじゃ、またねシズちゃん」

シズちゃんに手を振りホテルを出る。月は藍色の空に煌々と輝いていた。あのまま2人は幸せになればいいと心から願った。



END



切ないのが書きたいここ数日…。フラグを全て無視な書き方ですね。イメージは高校の頃付き合ってたけどちょっと色々あって別れて会わなくなってお互い寂しいよ!でも相手が幸せならいいか…って話です。はい、解りにくい…。