君の本音、私の嘘 | ナノ





・静臨♀
・前天性にょた


君の本音、私の嘘



ねぇ、シズちゃん。
(ねぇ、私の名前を呼んで?)


俺はノミ蟲じゃないからさあ
(臨也じゃなくて)


いい加減、憶えてくれないかなあ?
(本名で呼んでよ)


俺は臨也だから
(私は臨美だから)


***


「池袋に来んなっつったよなぁ、臨也君よぉお!!!!」
激しい怒号がポストと一緒に私の身体目掛け投げつけられる。ちくんと胸に刺さる痛みに蓋をして、私はコートを翻し走り出す。

「逃げんな!!」
後方からは金髪バーテン服の青年が凄い速さで追いかけてくる。彼は池袋では「自動喧嘩人形」で名を馳せている平和島静雄。シズちゃんは化物で俺の憎むべき相手であり、

そして…私の想い人でもある。

彼は私が女な事は知らないだろう。それは今までひたすらに性別を隠して来たからでもあるし、私の事なんてこれっぽっちも興味が無いからでもある。
そんな事を考えていると目頭が熱くなった。私は誰よりも男で、そして誰よりも女なのだ。

今日の為に女がつけそうな香水をして、さらしを緩めに巻いてきた。そう、今日が私にとって人生で最後のチャンスなのだ。

そうこうしている内に私は路地裏の行き止まりによって足を止められる。

「なんで手前は毎度毎度、池袋に来るんだ?あぁ?」
シズちゃんは青筋をひくつかせじりじりと間合いを詰めていく。
「やだなぁ、シズちゃん。なんでそんなに怒ってるの?怖い怖い。こうさーん」
両手を挙げ顔の横でひらひらとさせる。手も足も微かに震えている。恐怖からでは無く緊張からの震えが私を襲う。
「手前…なんか、女みてぇな匂いがするな」
シズちゃんが気付き始めた。
私は何度も反芻させた言葉を唇に乗せる。

「…さて問題です。俺は、高校の時何故、身体測定の日だけ休んでたでしょうか?」
「あ゛ぁ?手前、何言ってんだ?」
シズちゃんは私に聞いてきたが私は続けた。ここでもし喋るのを止めたら、私はもう言えない事が分かっていたから。

「問題2 何故俺は、体操服をいつもドタちんに借りていたでしょうか?」

「俺の質問に答えろよ」
更に青筋を立てるシズちゃん。そろそろ切れそうなシズちゃんに私は言葉を紡ぐ。

「問題3 どうして俺は今、女物の香水をつけているでしょうか?そしてこの2つの膨らみはなんでしょうか?」
そっとシズちゃんに近付きシズちゃんの手を胸の前まで持って行く。そして素早くさらしを取り、胸に強く手を宛がった。

「な、なんだ!?臨也、まさか手前…」

「んっ、正解は、私が女だからでした」
シズちゃんの手の上から自分の胸を揉む。すると彼は耳まで真っ赤に染まった。どれ程うぶなんだろうか。

「でも手前は臨也…」
「本名は臨也の也を美しいの美に変えたものだよ。読み方は「のぞみ」、ね」

彼は殆ど放心状態だ。そりゃ今まで男だと思って殴っていたのが女だったと知ったのだから放心状態にもなる筈だ。

「ね、シズちゃん…、私からのお願い、聞いてくれるかな?」

私はシズちゃんを見上げて「お願い事」を口にした。



「私の名前を呼んで?そしたら…」



最後の言葉は風が消してくれた。当然シズちゃんに最後の言葉は聴こえておらず、シズちゃんはおずおずと私の名前を呼んだ。

「臨美」


ありがとうシズちゃん。私はそう言ってその場を立ち去る。シズちゃんに頬を伝うものを見せたくなかったから。







(私の名前を呼んで?そしたら私、諦めがつくから)



END


哀しい静臨♀が書きたくなったんです。発作です。