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リラクゼーション(ロングバージョン)(その1)


 一九九九年四月一五日(木)。
 闇の中にもかすかに明るさが混じりつつあるような、払暁と呼ばれるにふさわしい時間。
 ここは、いまや九州中部戦線の要衝と呼ばれるようになった尚敬高校内、第六二高等戦車学校であるが、周囲はひっそりと闇の中にたたずんでおり、動く者の影とてない。
 今は紛れもない戦時中であり、戦争は二四時間年中無休、超過手当なしの重労働にほかならない。その中でわずかな訓練・整備の差は致命的な影響、はっきり言えば明日の生死の天秤を傾ける、最後の分銅になるかもしれないのだ。
 とはいうものの、さすがに全く休息なしでは、明日以前に今の身体がもたなくなってしまう。
 かくして、気力・体力の面で限界を迎えた者は作業を終了し、一部の例外を除いて僅かばかりの安息にありつくべく、思い思いに立ち去っていた、とまあ、こういうわけである。
 その例外がプレハブ校舎にあった。真っ暗な中に一箇所だけぽつんと明かりがついている。整備員詰所だ。 
 備品の供給が充分でないためどことなく薄暗い照明の中で、誰かがコンピュータに向かい、なにやら作業に没頭していた。
 ポニーテールが影になって揺れる。舞だった。一心不乱にキーボードを叩き続けている。
 モニター上では無数の文字列が猛烈な勢いで現れ、また流れ去っていく。時々アイコンらしきものが表示され、別のウィンドウが開いてその中で試験動作を繰り返していた。手は一瞬たりとも休まることはなく、その動きは一流の指南を受けたダンサーのごとく無駄のない、流麗といってすらよいほどだった。
「セルフチェック完了、全モジュール異常なし……か。よかろう、パッケージング開始」
 最後のコマンドを打ち込むと、ばらばらに作成されていたモジュールが一つのプログラムセルに結合すべく、パッケージャーによってまとめられていった。それでようやくいくらかの余裕が生まれる。
 舞は椅子に寄りかかって思いきり伸びをした。
「くっ、うっ、ん〜〜〜〜……ふう。これでようやく二個目か。先ほど失敗しなければな……」
 舞の手元にはパッケージングの完了したセルが無造作に転がっていた。
 それにしても、もとを正せばプログラムなのだからコピーして簡単に作れそうなものだが、そうは問屋がおろさない。
 特にこのテの情報収集型は、内容や収集先にあわせてのカスタマイズが必要になる。その分は作成者が補ってやらなければならないから、マスターがあっても決して楽ではない。
 セル作成に高い知力と情報技能が必要なゆえんである。
「そういえば、何時だ?」
 舞は時計を見て――思わず苦笑した。
「もうこんな時間か。残念だが今日はここまでだな」
 午前四時。
 パッケージングに三〇分はかかるから、どんなに早く帰っても五時を回ってしまう。
 そこからもう一回挑戦することもできなくはないのだが、今はそこまでする気はなかった。
「これでは寝ている時間はないな……、やむをえん」
 弁当を作る時間がなくなってしまうからな。
 そんなことを呟きながら、何気なく首を回す。

 ごぎっ。

 鈍い音が身体の中に響き渡り、同時に突き刺すような痛みが走った。
「!!」
 軽く回しただけだというのに、思いっきり鳴ってしまったようだ。予期していなかったから、これはかなり痛い。舞は少しの間、首を抱えて意味不明の言語を発していた。
 どうやら、この種の痛みにはあまり慣れていないらしい。
 改めて確かめてみると、セル作成に集中している時はそうでもなかったが、今は肩や腰にも鈍い痛みがよどんでいた。軽く体操などをしてみるが、なかなか頑固なものであまり改善したようには思えない。
 かといって湿布を貼ったりするのは、いくらなんでも妙齢の女性としてはかなりの抵抗がある。芝村は目的のために行動することをためらうことはないが、だからといって普段から恥も外聞もないわけではない。
「ふっ、これではまるでおばさんではないか……」
 首筋をとんとんと叩きながら自嘲的な呟きをもらしていると、チンと音がしてセルが転がり出て来た。
 攻撃型電子妖精の完成である。
 舞はそれにのろのろと手を伸ばし、先ほどの成果と一緒にポケットに収めると、全ての電源を落として詰所を後にした。
 いつの間にか東の空は白々と明けかかっていた。

   ***

 明けて四月一六日の昼休み。ここはプレハブ校舎屋上。
 速水は舞お手製の弁当を前に、一人ぽつねんと座り込んでいた。心地よい風も優しい日差しも、いまのところ彼の心に安らぎを与えてはくれないようだ。
 あらぬ方を見据えたまま心ここにあらずといった感じで、ほとんど無意識のままコロッケを箸で切り刻んでいる。
 舞ってば一体どうしたんだろう?
 授業中もやたらとため息をついたり、ごそごそと落ち着きがなかったりで……。あまりに目立つから、本田先生から注意されたぐらいだし。
 今日だって、せっかく昼食に誘ったのに「用がある」の一言でどっかいっちゃうし……。
「僕、何か怒らせるような事でもしたのかなあ?」
 ――検索命令受信。
 ――脳内検索開始……実行中……完了。
 ――該当ナシ。タダシ恣意的ナ検索対象カラノ除外ニツイテハ考慮セズ。
 確かに、データに少々バイアスがかかっているのは否定できない。つまりは何もわからないということだ。
 まあ、本当に怒っているのなら弁当がここにあるわけもないだろうが。
そこまで考えて、軽いため息をつく。ますます訳が分からなくなった。
 ……コロッケを征服した箸は、その勢いのままに今度はさといもの煮っ転がしを突き崩しにかかっている。
「恋人の事が何も分からないってのも情けないよね……」
 寂しげな笑みを浮かべながら、ため息をもう一つ。今日は幸せが大量に逃げ出しているようだ。彼にとっての幸せの素が目の前にいないのだから、それも当然かもしれないが。
「あーあ、いつまでこうやってても仕方ないや。とりあえずお弁当を……あれっ!?」
 驚愕の叫びを上げた速水の目の前には、おかずがことごとく切り刻まれた弁当があった。ここにいたって初めて自分が何をやっていたかに気がついたらしい。思わず苦笑するしかなかった。
 気を取り直して弁当に箸を進めるが、ご飯がやけに喉につっかえるのは、切り刻まれたせいばかりではなかった。
「一人で食べる昼食が、こんなに味気ないとは思わなかったなあ……」
 途中紅茶に何度も手を伸ばし、どうにか弁当を全て平らげると速水は急ぎ階下へと降りていく。
 せめて舞の顔を一目なりと見たい。その思いが彼を突き動かしていた。

 結果的にその努力は無駄に終わったが。

 その頃舞は、誰も来そうにない倉庫の、隅っこに置かれた古びたソファーで眠りこけていた。
 その寝姿は芝村としてはどうかと思われるほどに崩れていたが、そこまで気にする余裕もなかったようだ。
 表情も、ようやくありつけた睡眠のために、普段からは想像もできないほどゆるみ……もとい、安らかなものだった。

 ……あ、よだれ。

   ***

 その日の夜、ハンガー内。
 速水は工具を片手に、一人で三番機の整備を行っていた。あるいはここなら、とかすかに期待もしていたのだが、舞は、今日は全くハンガーに姿を見せていない。
 結果、手先で工具を弄びながら、ぼんやりと時間を過ごさざるを得なくなっていた。
 元々三番機の整備は舞との連携よろしくほぼ完璧であり、さほど手を加える必要もなかったのは事実だ。
 そう、彼女が共にいてくれたからこそ初めて三番機は命を吹き込まれる。
 そして自分もまた。
 その事を速水は一瞬たりとも忘れた事はなかった。
 だが、舞はどうなのだろう?
 工具を持つ手が止まった。

「速水、じゃ、俺もう帰るわ」
 再び暗い想いに囚われそうになった速水に、隣で作業をしていた滝川が、んーっと腰を伸ばしながらそう言った。
 普段は周囲から「雰囲気の読めない男」と言われていたが、こんな時にはむしろありがたい存在かもしれない。
 ふと時間を確認してみればそろそろ真夜中になろうとしていた。かなりの時間ぼーっとしていた事に気がついた速水は、かすかに苦笑しながら答えた。
「ああ、お疲れ様」
「お前もな……。ところでさ、芝村はどうしたんだ?」
 それは速水にとって一番触れてほしくない所であったのだが、それに気がつく様子もない。
 やっぱり彼は雰囲気を読めない男だったようだ。
「そ、それは……」
 思わず答えに詰まるが、次の言葉は速水の意表をついた。
「詰所に閉じこもってなーんかやってるみたいだけど、お前らケンカでもしたのか?」
「舞が、詰所に?」
「ああ、よく見かけるぜ」
 それが、彼が仕事をサボってうろうろしていたからだ、とまでは言わなかったが。
「ここ数日な……、っておい! どこ行くんだよ!」
「滝川、サンキュー! 気をつけて帰ってね!」
 速水は手にしていた工具を一動作で工具箱に放りこむと、後ろを振り返りもせずにたちまち階段を駆け下りていった。
「何だあ、あいつ? ……変なの」
 何がなんだかわからない滝川はしばらく首を捻っていたが、ま、いいかと帰り支度を始めた。

 その頃、舞は再び整備員詰所でプログラム作成に勤しんでいたが、今一つ調子が上がらなかった。
 昨夜の流麗な動きはどこへやら、キーの入力速度も遅く、入力ミスも多発。モジュールエラーは頻発し、すでに一回セル作成に失敗していた。
「くっ、なんたる無様な……」
 舞は歯ぎしりせんばかりの勢いで嘆くが、身体の方は正直なもので連日の酷使に悲鳴を上げている。それは必然的に精神にも影響を及ぼし、普段の動きを不可能にしていたのだ。
 思わず指が滑った。
 またエラー音。これで四つ目のモジュール作成失敗だ。
「!!」
 舞は思わずキーボードに拳を叩きつけた。キーボードが抗議の悲鳴を上げる。ついでにもう一つエラーが発生した。
 舞は大きく息をつくと椅子の背もたれに体を預けた。背もたれに負けないくらい全身がギシギシと軋んでいるのがはっきりと分かる。頭の中にももやの塊があるようでどうにもすっきりとしない。
 限界だ、そう判断できる根拠もいやというほどある。
 それでも手を休める気にはなれなかった。キーボードをもとの位置に置きなおし作業を再開する。
 だが、再開はしてみたが、全く集中できない。
 舞は再び背もたれに寄りかかる。思いっきり体を預けながら、自嘲の想いと共に呟いた。
「何をやっているのだ、私は……。これでは全く足りないではないか……」
「足りないって、何が?」
「!?」
 突然耳元で聞こえた声に慌てて見上げると、心配そうな顔をした速水が、上から舞の顔を覗き込んでいた。
「そ、そなた……あっ!」
 もともと姿勢が思いっきり不安定なのに、驚いた拍子に飛び退ろうとしたからたまらない。

 ばたーん!!

 舞は派手な音を立ててすっ転んだ。
「舞っ!?」
「だだだ、大丈夫だ……ではなく! 厚志、一体何の用だ!?」
 怒鳴るような口調でくってかかってみたものの、顔が真っ赤なので迫力のないことおびただしい。
 まさか引っくり返るとは思っていなかった速水は、目を丸くしながら答えた。
「いや別に、でも舞のことがちょっと心配で……」
「心配? 別に私は心配してもらうような事などないぞ?」
 速水の顔が少し曇る。その様子に舞が訝しげに訊ねた。
「どうしたのだ、そなた? 何かヘンだぞ?」
 その問いにもすぐには答えない。わずかに視線をそらす。
 今日こそ、聞かなきゃ。
 速水は舞に向き直ると、ゆっくりと口を開いた。
「僕、何か舞に悪いことをしたのかな?」
「何だと?」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、彼女としてはそれくらいに意外な言葉だった。
 何の事だ? そんなものがあるわけなどない。
 むしろ普段の仕事を押しつけてしまっているような格好で心苦しく思っているのはこちらだというのに?
「そなた、何かやった自覚があるのか?」
 とりあえず、それだけを答えた。何をどう聞いたらいいかがよく分からなかったせいもある。
「とんでもない!」
強い口調で否定はしたものの、また顔が曇る。
「でも、知らずに怒らせたかもしれない……。なんだかここのところ様子が変だし……、僕を避けてるみたいだし」
「あ……」
 舞は驚いた。このところの行動がまさかそのように解釈されているとは考えていなかったのだ。確かに特に説明などはしていなかったが……。
「いや、それは違う! ……そうではない。別にそなたを避けているのではないのだ……」
「じゃあ、一体何?」
 速水が真剣味を増した。一歩、また一歩と詰め寄ってくる。
「そ、それは……」
 その様子に押されたのか、じり、じりと後退する舞。口調まで怪しくなってきた。顔にかすかに赤味がさす。
「舞」
 じっと舞を見つめる速水。その瞳には限りない真摯な光が輝いていた。
 厚志、そなたはずるいぞ。そんな目をされたら言わぬわけにはいかないではないか……。
 仕方なく、舞はぼそぼそと説明を始めた。

   ***

「士翼号? それってあの噂の新型戦車のこと?」
「そ、そうだ」
 たっぷり三〇分は経った後、どうにか舞が説明を終えた時には、速水の表情は安堵七割呆れ三割のシェイクミックスといった感じだった。
「どうして?」
「……戦略の問題だ」
 簡単に言うとこうなる。
 現在の人類優勢は非常に危ういバランスのもとに成り立っている。ここで優勢を確実なものにするには、決定的な駄目押しの一撃が必要だというのだ。それも当初の目標からすれば、その一撃は速水が成し遂げなければならない。
「で、士翼号?」
「そうだ。試作機とはいえ、従来の士魂号をはるかに超える性能を持つとされるあの機体ならば、我らの目的にふさわしい。そう判断したのだ……」
 なぜか目を合わせずに答える。
 芝村としても、舞個人としても、彼の身を案じてとは言えなかったが、そんな想いがどこかにあったのかもしれない。それが舞をして前を向かせなかったらしい。
 速水は舞を見つめたまましばらく何も言わなかった。
心臓が勝手にステップアップしていく。血液が顔面に集まってくるのが自覚できた。
「な、何だ? 厚志、何故何も言わぬ?」
 長い沈黙の後、ようやく口が開かれた。
「それはいいアイデアかもしれないけど……、その件については拒否させてもらうよ」
「何故だ!?」
 詰問するような響きを帯びた声に、速水はあくまで静かな口調のまま答えた。
「僕は別に天才ってわけじゃない。たとえ物凄い性能を持つ新型でも、それに慣熟するにはある程度の時間が必要になると思う。そんなに今のバランスが危ういのなら、僕――僕たちにはそんな時間はないはずだ。違うかい?」
「それは……」
 舞もそれは考えないではなかったが、今の速水の能力なら十分カバー出来ると考えての事だった。
 しかし、それに速水は反論する。
「僕は今の複座型が一番自分の能力を発揮できると信じている。あいつなら、君と二人で一生懸命調整したあの機体ならば、僕は限界ギリギリまで安心して飛び込む事ができるんだ」
「厚志……」思わず呟きが漏れる。
「それに、その士翼号って単座なんだよね? ……背中が寂しいよ」
 速水はどことなく照れ臭そうな表情で言った。
 舞の顔が驚きの表情を形作った。そして眉がきつめにしかめられる。
「何を言っている。判断に個人の感情を持ちこむな。別に一緒に乗って戦うだけが道ではあるまい?」
 そう言いながらも口調は微妙に揺らいでいた。
 舞にもその想いはあった。いや、それは速水よりも遥かに強かったかもしれない。
 初陣以来ずっと複座型で共に戦ってきた。
 最初は彼が成長していくのを背後から見守り、やがてはその中で、恋人として共に二人で生きていくことを誓った。
 今までの全てはあの機体で共に戦ったおかげ――いや、彼と共にいたからに他ならないのだから。
 その想いには自ら封印をかけたつもりだったが、それは速水によってあっさりと蹴破られた。
「そうだけどね……。僕は舞のそばにいたいんだ」
「ば、馬鹿者! 何を、何を言うか……」
 速水の言葉に思わず俯いてしまう。顔が上げられない。その手はキュロットの裾を握り締めていた。
 しばらくして、ようやく言葉が紡ぎ出された。
「よ、よかろう。そなたがどうしてもというのなら仕方がない。だ、だが、後悔などするなよ?」
「後悔なんかするもんか。ありがとう、舞」
 そう言いながら頬に優しく手をあてる。舞がハッと顔を上げた。二人の視線が絡み合う。
 舞がそっと目を閉じる。速水はそっと顔を上げさせた。
 上げさせた、のだが……。
 その時に、少し首をひねったらしい。

 ごききっ。

 また首の鳴る音が大きく響き渡った。雰囲気が音を立てて一挙に崩れさる。
「……ひょっとして、肩こり、かなり重症?」
「う、うう、うるさいっ!」
 再び目を丸くした速水に噛みつくような勢いで答えたものの、首を押さえながらでは説得力などまるでない。さっきまでの照れくささと何とも情けない羞恥心で、舞の顔は完熟トマトなみに真っ赤だ。
 速水はしばし呆れ顔で見ていたが、ふと何かに気がつくと、
「舞、ちょっと立ってみて?」と言った。
「? こうか?」
 その場に素直に直立した舞を、速水はしばらくしげしげと見ていたが、
「舞」
 ひどく真剣な口調で呼びかける。
「な、なんだ?」
 その突き刺すような視線を受けながらかろうじて答えたが、声が裏返るのは抑えきれなかった。
 速水はなおも舞の身体を見つめていたが、何を思ったかやにわに両肩を強く掴んだ。
「!?」全身が緊張とかすかな恐怖で硬くなる。
「舞」
「にゃ、にゃ、にゃにを……!?」
 言語中枢は既にストライキに入ったようだ。
「……猫背」
 次の瞬間、骨をも砕く右アッパーが速水の顎に炸裂した。

   ***

「その、すまぬ……」
 消え入りそうな声が詫びた。
「いや、僕は大丈夫だけど」
 顎の具合を確かめながら、速水は答える。その後いくつかの質問が発せられた。
「う〜ん……。頭痛とかは? それか頭が重いとか?」
「う、うむ、確かにそれはあるが……。なぜ分かる?」
「顔に書いてあるよ」
 舞は慌てて顔をまさぐった。
 もちろんそんなわけはない。だが、座り仕事を長時間やっていたという一事だけでも、そのくらいにはなるだろうと容易に察せられた。
 まあ、今の質問はいうなれば占い師が自分のペースに引き込むために発する、分かりきった質問とさして変わらない。
 そして、効果もまた。
 舞は素直に感心した表情で、速水の言葉に聞き入っている。
 それはともかく、彼の見たところ主な問題点は首、肩、腰。……つまり全身全部ダメ、だった。
 ――こりゃ、徹底的に治療をやっておいたほうがいいね。
 速水は、その下準備のためにあえて別の角度から話題を切り出した。
「まあ、このままじゃ仕事の能率が下がるのも当たり前だし、それに……」
「それに、何だ?」
「健康にも差し支えがあるかも……」
 わざと深刻そうな表情を作ってみせる。それはたちまち舞にも伝染した。
「そう、なのか? ふむ、この重要な時期にここで倒れるわけにはいかんな」
 ――そんな事はどうでもいいんだけどね。
 顔には出さずに苦笑する。
(つづく)


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