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戦友、還らず(その3)


 焼け焦げた柱が林立し、崩れた壁が小山を築き上げる。ビルの窓ガラスはことごとく吹き飛んで、窓はうつろな空洞と化していた。
 パッと見には、ここに往時の都市、それなりに繁栄した街並みの姿を見いだすことは大変に難しかった。
 ここは熊本市南部のとある一角。丘陵上に展開した指揮車からは、かつての市街地が一望できる。指揮車は半壊した住宅に半ば潜り込むようにして身を潜めていた。
 車内ではオペレーターの瀬戸口とののみがコンソールに向かい、情報収集に余念がなかった。
「司令、全士魂号、所定の位置に展開完了しました。各機機体の異常を認めず。通信系問題なし」
「すかうと、りょうよくてんかいかんりょう。よていかんそくてんにとーたつしました」
「よろしい。別命あるまでそのまま待機。周囲の警戒は怠らないように」
「了解。各機そのまま待機。肩の力を抜きつつ周囲を警戒」
 瀬戸口は、速水の言葉を少々意訳して伝えると、モニターのモードをビジュアルに切り替えた。近くに展開する士魂号が映し出されると、彼はそれを順繰りに映し出していく。いずれも何箇所か塗装ははげ、修復しきらない傷は残っていたが、性能自体はまったく問題ない――どころか、小隊発足以来最高の整備レベルを維持していた。人員と資材の集中は、予定通りの効果を挙げていた。
 ――それはまあ、いいんだけどな。そうするとよその小隊が厳しいはずなんだよな。そのあたりは速水も気がついているはずなんだが……。さて、どうでるか?
「瀬戸口君、異常はなさそうかい?」
 背後からの声に、瀬戸口は慌てて振り返った。
「あ、はい。各機所定位置で待機中。異常ありません」
「そう。ところで友軍の動きは?」
 瀬戸口はすばやくモニターを切り替えると、いくつかキーを叩く。すぐに戦場全体をワイヤーフレームで描いた地図と、簡略化された部隊配置が表示された。
「前線にいるのは我々だけです。あとは後方に砲兵大隊と、航空支援としてヘリが一個小隊ほど」
「たった一個小隊の支援としては、大盤振る舞いだね」
 他人事のような速水の口調に、瀬戸口はわずかに苦笑を浮かべた。その「大盤振る舞い」を実現したのは、ほかならぬ速水なのだ。どのような手練手管を使ったか分からないが、ここしばらくの支援体制は、以前では考えられないほどに充実していた。
「まあ、うちだけで全部使えるってのは、勿体ない気もしますけどね」
「今は、そうだけどね」
「え?」
「今は贅沢に見える、って言ったのさ。そのうちに、ちゃんとバランスが取れるようになるよ」
 瀬戸口の表情がわずかに引き締まった。これまでの情報のいくつかが、脳裏に浮かんだ考えを補強する。
 ――ふん、そういうことか。
「なるほど……ならば俺も、もう少し精進する必要があるのかな?」
 小声でささやくその声は、かつて速水を「坊や」と呼んでいた頃のそれに近かった。速水も概ね似たような口調である。
「そうなるかな。大変になるかもしれないけど、よろしく」
 瀬戸口は、もしここが戦場でなければ、速水を小突いてやりたい気分だった。
 ――たく、しれっとした顔で、とんでもないことを考える坊やだぜ。まあ、そのくらいでなきゃ、あの髭親父の後釜は務まらないか。

 この時、善行がくしゃみをしたかどうかは定かではない。

 と、モニターの一角にぼんやりとした赤い三角形が浮かび上がった。それは徐々に数を増しながら、次第にはっきりとした表示にかわっていく。
「センサーに反応あり、空間歪曲反応を確認! 幻獣、実体化を開始しました。現在までの反応、中型三、小型七、なおも増加中!」
「総員戦闘用意、全士魂号、クールよりホット! 前線における詳細判断は芝村千翼長に一任する」
『心得た』
「てき、しんぐんをかいし! でーたべーすしょうごうちゅう。まいちゃん、でーたをおくるね!」
「整備班より連絡、補給ならびに応急修理準備ヨシ。補給は三会戦分」
「承知した。五一二一小隊はこれより戦闘に入る。各員の努力に期待する」
 通信を聞きながら、瀬戸口がどこか感心したような表情を浮かべていた。
 ――どうなることかと思ったが、なかなかどうしてやるもんだ。こっちも気を抜いてはいられんな。
 彼はコンソールに視線を戻すと、いかなる些細な変化も見逃すものかとモニターを注視した。
 戦いが始まった。

   ***

 辺りはすっかり夜の帳に包まれていたが、プレハブ校舎周辺はまだ昼間同様の騒がしさであった。
 次々に帰還する車両が整列し、トレーラーからは士魂号が降り立っては所定の整備台に移動していく。ぱっと見ただけでも全機が大なり小なり損害を負っているのは明らかであったが、少なくとも手足はちゃんと動いていたし、自力移動も問題はなかった。
 もっとも、四番機のパイロットは整備台到着と同時に気絶して担架で運ばれていったし、一・二番機の様子を見て整備士たちがこめかみを押さえていたりしたが、記録上は損傷軽微、死者ゼロで万々歳、そういうことであった。
 だが、小隊司令室の雰囲気は決して軽いものではない。どっちかというと軽重というよりは、うんざりと言ったほうがよかったかもしれないが、なんとも言えない雰囲気の中、加藤と速水は中断させられた仕事を再開した。ふたりの目の前に積まれた書類は、先ほどの倍ほどもある。
「こいつはもう……、後から後からいっくらでも沸いてくるし、細胞分裂でもしとんのかいな、こいつらはっ。ほっときゃ手ぇつけられんようになるし……、めんどくさくてかなわんわあ。火ぃつけたろか、ほんまに」
「おーい、これだって立派な『戦闘行動』だからね。できればその辺はお手柔らかに頼むよ」
 心底うんざりしたような加藤の声に、速水はわずかに苦笑を浮かべるにとどめた。
 口ではなんのかんのと言いながらも彼女の手はまったく止まらず、目は書類からぴくりとも離れない。加藤事務官ここにありと再確認させるような水際立った手際であるが、それでもさすがにこの書類の量は、文句のひとつも言わなければやっていられないようである。
 官僚仕事もここに極まれり、であるが、とにかくやらなければ何も始まらない。速水も視線を手元に戻すと、猛烈な勢いで書類を片付け始めた。

 始まりがあれば、いつかは終わりもある。
 数時間に及ぶ格闘の結果、ついに最後の一枚に速水のサインが入れられた。
「お、終わったぁ……」
 ペンをその場に放り出すと、加藤は机に勢いよく突っ伏した。速水もさすがに肩を回したりしていたが、疲労の色は加藤よりはるかに薄かった。
「これとこれは明日発送、こいつは保管、と。うん、問題なし。お疲れ様」
「速水君もお疲れ、っていうか、あんた書類仕事ほんま速いなあ。おまけに字ぃものすごい綺麗だし、どやったらそんなに書けるん?」
「別にたいしたことはしてないけどな。強いて言うなら、正しい姿勢で書くぐらいかな?」
「ほんとにそれだけなん? なんや魔法でも使ってるんちゃうんか?」
 加藤がさらに軽口を叩こうとしたその時、ノックと同時に小隊司令室に入ってくる人影があった。
 舞であった。
「あ、舞ちゃんお疲れさん」
「加藤か、ご苦労だな。もう仕事は済んだのか?」
「うん、ちょうど今終わったとこや。速水君のおかげで思ったより早く済んだわ」
「そうか。……ちょうど良い、これを飲むが良い」
 舞が放ったのは、紙パックの紅茶であった。
「ふわぁ、助かった。喉カラカラだったんや。サンキュ」
「礼には及ばぬ。……厚志もだ」
「ん、ありがと。……そういえば、いつの間にかずいぶん静かになったね」
 速水の言葉に、加藤も今さらながらに耳を済ませてみたが、先ほどまで外から響いていた喧騒が、今ではすっかり静まり返っていた。
「当然だ。作業は三〇分も前にすべて終わっておる。全機修理は完了したから、機体のほうは問題ないぞ」
 さすがに従来の倍も整備士がいれば、できることは桁違いに多くなる。もっとも烏合の衆ではなんの意味もないが、それら「戦力」をちゃんと使いこなす能力がこの小隊にはあるという、それは証明であろう。
 舞の言葉に何かを感じ取ったのか、速水の表情が若干改まった。
「ああ、加藤さん。特に用事がなければ今日はもう上がっていいよ」
「そう? ほんならすまんけど、今日はこれで失礼しまっさ。舞ちゃん、すまんけどお先ぃ」
「うむ、十分に休養をとるがよかろう。ご苦労であった」
 加藤はいつの間にか用意してあった鞄を手に取ると、さっさと小隊司令室を後にした。少し離れたところでいまだ明かりが灯っている小隊司令室を振り返る。
「さて、これからムズカシイ話がありそうやな」
 小隊司令と前線での戦闘指揮官が顔を揃えれば、何かあると思うのが自然である。そういうときには加藤は席を外すのが暗黙のルールとなっていた。
「もっとも、うちがいたら、あのふたりには別の意味でもお邪魔やけどな」
 加藤はぺろりと舌を出すと、校門へと走っていく。しばらくは影がゆらゆらと見えていたが、やがてそれも闇にかき消され、あたりにはただ静けさだけが残っていた。

「……くしゅん!」
「なんだ厚志、風邪でも引いたのか?」
 言葉は努めてさり気ないが、彼女の声には僅かに案ずる響きがあった。速水は小さく笑みを浮かべる。
「いや、そうじゃないと思うけど、なんだか鼻がむずむずしてさ。それはともかく、小隊の調子はどう?」
「全機出撃可能だ。むろん、文字通りの意味でだ」
「運用面から見ると?」
「危なっかしいな」
 舞は一刀両断に切り捨てた。
「なにぶん、再編して間もない部隊だ。なじむにはある程度時間が必要だろう」
 舞の言葉に、速水は首肯してみせた。それは事前に想定されていたことであるから、いまさら驚きはしない。
「四機編成にした感想は?」
「戦術の幅は広がるな。単純に火力が増強されるだけでも意味はある。編成的には今の形で問題ないと思うが、もう少し研究が必要だな」
「『切り込み隊』を二機にしたのはまずかったかなぁ?」
「使い方次第という所だな。手綱の引きどころを間違えなければ、破壊力はある」
「引けるかい?」
「……誰に向かって物を言っているのだ」
「違いないや」
 速水の笑い声に、舞も不敵な笑みを浮かべた。
「となると、問題は四番機か。今のところは持ち回りだけど、そのうちには誰かを入れないといけないね」
「それについては腹案がないでもないが……。まあ、しばらくは今のままでよかろう。そうだ」
 舞は何かを思い出したように、小脇に抱えていた書類鞄から紙束を引き出すと、速水に差し出した。
「各小隊の再編状況がまとまったそうだ。各小隊からレポートが届いておる」
「ん、ありがとう」
 速水は紙束を受け取るとざっと目を通す。書かれている内容に小さく息をついた。
 ――まだ、時間がかかるか。
 レポートには、士魂号ゾンビとの戦闘に参加した、通称「芝村中隊」の各小隊の現状が記されていた。それぞれに激戦を潜り抜けてきただけあって、相応の損害も負っている。
中には五一二四小隊のように、人員はともかく装備は壊滅状態の小隊もあった。時間がかかるのはある意味仕方のないことであった。
「……でも、いずれは頑張ってもらわないとね」
 彼らは、やがて編成されるであろう独立部隊、その中核戦力になるはずなのだから。

   ***

 善行も原も、ただ単に関東に向かうわけではない。会議の席、速水の言っていた「小隊のためになること」の実現の足がかりを作るための状況であったが、独立部隊編成は、速水・善行が九州にまいた、そして最大の種のひとつであった。

 話は士魂号ゾンビとの最後の戦闘、その翌日にさかのぼる。
 激戦の余韻もまだ生々しいこの日、速水と善行のふたりは、特別の申請を行って生徒会連合九州軍総司令部に姿を見せていた。目的は、芝村準竜師との面談である。
 相当に奇異なことであった。
 通常、芝村中隊の各小隊には、準竜師とのホットラインが常設されている。通常の陳情であれば、それを使えば済む話であった。
 周囲の不思議そうな、あるいは怪訝な視線など気にもせず、ふたりはまっすぐに準竜師の執務室へと足を運んだ。
 ノックをすると、中からいつものぶっきらぼうな応えが返ってくる。準竜師はちょうど、何かの報告書を読んでいるところであった。
「フン、雁首そろえて姿を見せるとは珍しい。何用だ?」
 準竜師はさして驚いたふうでもなく、顎でソファを指す。相手がよほどの無能でない限り、部下を立たせっぱなしにしておくという習慣は彼にはない。
「まずはこれを、ご一読ください」
 着席するのもそこそこに、善行は書類を鞄から引き出すと、準竜師へと差し出した。準竜師はわずかに眉をひそめたが、何も言わずに受け取った。
 速水と善行、両名の連名で提出されたレポートを目にした準竜師の表情は一見の価値があったかもしれぬ。
 一瞬ではあったが、確かに目を丸くしたのだ。
 流すように最後まで読み終えた後、準竜師はテーブルに報告書を放り出すように置いた。
「……ずいぶんと、大胆なことだ」
 大胆が服を着て歩いているような人物にそう評されてしまっては、速水たちは苦笑するしかない。もっとも、準竜師は傲岸不遜、わが道を行くように見えて、その計画立案には慎重を極めるようなところがある。その部分が思わず言わしめたと見るほうが正解であろう。
「準竜師の言葉とは思えませんな。それで、概要はご理解いただけたと思いますが?」
「まあな」
 何気ない口調であったが、それをそのまま信じるのは危険である。場合によってはその場で逮捕・拘禁されるぐらいは覚悟すべきであった。
 レポートがいうところを一言で表すならば、「芝村中隊」を核にした独立戦闘大隊の創設を提言していたのだ。
 もっともこれは、萌芽はすでに存在すると言ってもいい。五一二一小隊自体、準竜師の肝煎りで設立された部隊であり、他の部隊に比べて大幅な自由裁量権が認められている。他の士魂号装備部隊も同様だ。
 それが「芝村の私兵」と言われるゆえんであるのだが、速水たちの提言は、それをいわば極限まで推し進めようとしていたのだ。
「貴様らは、九州で反乱でも起こす気か?」
 準竜師のあざけるような口調にも、ふたりは動じなかった。
「いえ、単に現在の任務をやや拡大するだけのことです。すでに基礎は完成していますから、原則としてそれを拡大するだけということになります」
「幸いといってはなんですが、士魂号M型の集中運用に関しては、戦力的に大きなメリットがあることが実証されました。また、同じ装備を持つ部隊を集中することで、資源と人材の有効活用を図ることができます。戦力の効率的な運用は、軍人にとってむしろ当然と愚考いたしますが?」
「言うは易し、というやつだな! 正気の沙汰とは思えん。貴様らは本気で言っているのか? いい病院なら紹介してやるぞ?」
 叩きつけるような言葉の嵐はなおもしばらく続いたが、呆れたような口調とは裏腹に、準竜師の目はどことなく興味の色を浮かべていた。彼の脳裏では様々な情報が取捨選択され、比較検討が続いている。
 もともと、士魂号装備部隊を分散運用していたのは、準竜師をもってしても抑え切れぬ不審の目をそらす、という意味もあった。敵と戦う前に味方に足を引っ張られることを避ける腹積もりであったが、今回の士魂号ゾンビ騒ぎにより、その配慮は無意味になろうとしていた。今のところ懸念は払拭したとはいえ、誰もが芝村配下の部隊に対し、疑惑と不信の目を向けている。
 だから逆にチャンスなのだ、と速水たちは言っているのだ。
 彼らは戦力を集中することで余計な干渉を可能な限り排除し、同時に戦力を強化しろと迫っているのだ。回避するのではなく、真っ向から切り込めと詰め寄っているのだ。
 速水たちは準竜師に対して、大規模な思考の転換を要求しているのだ。
 準竜師とて無能ではない。彼らの言わんとするところはレポートからだけでも即座に理解していた。
 兵力の集中と迅速な行動。統一された指揮系統。用兵に関しての基本が満たされるのなら、それはそれで大変に結構なことであった。
 芝村に対する懸念? そんなものは元から存在している。いまさらそれが少々増えたところでたいした問題ではない。
「ご懸念はもっともですが、我々はこれが最善の策であると考えています。ご助力さえいただけるのであれば、必ず実現できると信じています」
 ――つまり、問題があったところで、必要ならば自力で叩き潰すということか。フン、速水め。尻に敷かれているだけかと思ったら、言うようになりおったわ。
「相変わらず無茶を言う。そのあたりは変わらぬようだな。善行、貴様が外に遊びにいくのも同じ理由か? ふたり揃ってとは、仲が良いではないか」
 善行が露骨に嫌そうな表情を浮かべたのを見て、準竜師は大口を開けて笑いこけた。どこか蝦蟇の鳴き顔に似ていなくもない。彼は笑いを収めると、レポートの末尾に自らのサインを入れた。
「……よかろう、必要な手続きはこちらで行う。貴様らも思う通りに手はずを進めろ」
 ふたりは黙ったままうなずくと、席を立った。
 ドアが閉まり、ひとり準竜師が残されると、彼はドアのほうを向いたまま、つぶやくように言った。
「それにしても、独立部隊とはな」
 確かに、自らの自由になる独立戦闘部隊は、これからの戦況を考えれば貴重極まりないものになる可能性があった。ただし、それは同時に芝村一族に対する風当たりをさらに強める結果にもなるだろう。いろいろと障害があるであろうことは容易に想像がつく。
「あやつらも、自ら修羅に好んで入るとは、つくづく物好きなやつらだ。さすがは芝村、そう評すべきか? ……俺は、巻き込まれて行動するのは好みではないのだがな」
「そのわりには、随分と喜んでいらっしゃるようですが?」
 背後からの声は、副官であるウィチタ・更紗のものだった。彼女が手にした書類をいくつか準竜師に手渡すと、準竜師はそれを面白くもなさそうに眺めていく。傍らに立つ更紗の顔には、呆れと興味がない混ざったものが浮かんでいた。
「喜んでいる? そう見えるか」
「ええ、思いっきり」
「……まあ、面白くはある。なにしろ駒が増えるからな。こちらのやりようもあるというものだ。状況をコントロールしたければ、力があるに越したことはないからな」
「持った力に振り回されるということもありますわ。お遊びも大概にしてくださいね。あ、これは言うまでもありませんでしたわね」
「……何か用があったのではないか」
 どことなく拗ねたような準竜師の声に、更紗は素直な笑い声を上げた。
「各種手続きに関する資料です。さすがにすべてというわけにはいきませんでしたが、二日以内に法的権限まで含め、素案を作成いたします」
 更紗の報告に、準竜師はにやりと笑みを浮かべた。
「結構。そのまま進めろ。……あやつらもまさか、搦手からも手が伸びていたとは思うまいな」
 ――やはり、尻に敷かれるのは変わらずか。ま、それもよかろう。
「面倒か。面倒だと? この世に面倒でなく、楽しいことなどあるものか。そろそろ、すべては変わってもいい頃合だ。最善の策はもはや望めない以上、変わるのが今であって悪い理由はない。速水、善行。お前らの企み、乗ったぞ」
 これが臨編独立第一大隊、のちに芝村連隊と呼称される部隊誕生の瞬間であった。


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