06
フユの魔力が刃となって、シスを傷つけていく。
しかしそれでも、シスはフユを離さず、それどころか抱き締める腕に更に力を込めた。
「フユ、フユ、聞け。お前は、一人じゃない!」
「やだ、やだー!」
「俺がいる! 俺が、ずっとお前の傍にいる!」
大声で叫んだシスの言葉に、魔力の暴走が少しだけ弱まった。
それに合わせてシスがさらに密着するように抱きしめなおし、フユの額を己の肩に押し付けると、動揺するフユの心を表すように、魔力の刃が勢いを失っていく。
「フユ」
「……」
「お前は、よく頑張った。これからは、俺と一緒に暮らそう。もう誰もお前を傷つけたりしない」
フユの前髪を指でそっとはらい、現れた額に優しくキスをした。
それから目尻と頬、首にもキスを落としていくと、フユの魔力の暴走がピタリと止んだ。
暴走が収まった室内は、再び静寂に包まれる。
多大な魔力を消費したフユは力を失ったかのように床に倒れそうになったところを、シスが優しく抱きとめた。
意識が朦朧としているのか、フユは確かめるように手をのばし、抱きとめるシスの頬に触れる。
「これからお前を、魔界の城に連れていく。いいな?」
「シ、ス……」
「俺がずっと、お前と一緒にいる。だから安心しろ」
シスがそう言うと、フユはホッとしたように微笑んで、やがて意識を失った。
その愛しい体を抱き直し、額にキスをすると、シスは移動魔法で己の城へと戻ったのだった。
フユが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
大きなベッドに寝かされているようだ。
体にまとわりつく疲労感を持て余しながら辺りを見渡し、これまでの記憶を呼び起こす。
シスとの対峙、帝国の裏切り、両親の死。
短時間で、色々なことがありすぎた。
思い出したら、吐き気がした。
帝国に裏切られ、10年もの時間を無駄にしていたことが、悔しくて堪らない。
思い出すと、先程散々泣いたのに、また涙が流れてくる。それを拭うこともせず、フユは簡単に騙される己の愚かさに唇を噛み、泣き続けた。
暫くそのままでいると、部屋の扉が外から開けられた。
現れたのは、意識を失う前に対峙していたシスだった。
彼はフユが泣いている姿を見つけると、急いでよって来た。
「どうした、怖い夢でもみたか?」
ベッドの端に腰掛け、優しくフユを抱き締める。背中を摩り、もう片方の手で頭をポンポンとたたいた。
フユは荒れ狂う感情がそれによってだんだんと収まっていくのを自覚して、シスの服にしがみ付くようにして、なんとか涙を引っ込めた。
「……落ち着いたか?」
やがて啜り泣く音も止み、シスは腕の中のフユにそう尋ねた。
フユは恥ずかしそうにシスを見上げながら、コクリと頷く。
シスにはそんなフユが愛しくて堪らなかった。
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