05




まさか。
シスが魔王なんて嘘だ。
だって、そしたら俺はシスと戦わなければいけない。

フユは泣きそうになりながら、シスを見つめた。
毎日、たくさんのことをこの男と話した。フユは毎日辛い出来事ばかりだったが、シスに話すと途端に幸せな気持ちになった。

「シス……」

先ほどまでの戦意が鈍る。
王様や兵士の安否も分からず、フユの心は不安定に揺れた。
対して、シスの声音は今まで聞いたものと同じ、ひどく落ち着いたものだった。

「フユ、やっと会えたな。お前に、話したいことがたくさんある」

シスはこの場に似合わない優しい笑みを浮かべている。
フユはどうしたらいいか分からず、ただ立ちつくした。

「先に、お前が心配しているこの国の王の話をしよう」

戸惑うフユをおいて、シスは優雅に話し始める。

「この帝国の国王と大臣、兵士、それから町人は皆ここから遠く離れた森に向かっている。聖なる森と呼ばれるところでな、そこならば俺たちから逃げられると思ったのだろう。お前がこの城の部屋に案内されてすぐに、皆颯爽と避難したよ」
「え……?」

そんなはずはない。
大臣は、一緒に戦おうとフユに言ったのだから。

「信じられないならば、町までおりて家屋を見てくるといい。人っ子一人いないからな」

シスの低い声が、フユの心に重くのし掛かる。
信じたくはないが、あまりに静かなこの空間が、嘘ではないことを物語る。

しかし、それではまるで。

「俺は、囮……?」

呟き、フユは膝からガクリと崩れ落ちた。
とんでもない裏切りを実感する。
そんなフユを見つめるシスは、目を細めた。
そして、さらに重い現実を突き付ける。

「お前は今まで、なんのために戦ってきた?」
「両親の、解放のため」
「その両親は、すでに死んでいる」

ヒッ、とフユの喉から悲鳴が漏れた。

「昔、お前の目の前で焼かれた時、二人とも絶命した。お前は途中で意識を失ったためにその事実を知らず、今日までこの帝国に騙されてきたんだ」
「嘘だ」
「嘘だったら良かったがな」
「そんな……!」

フユの体に震えが走る。
知らぬ間に、涙がボロボロと零れ落ちた。

両親が死んでいるならば、自分は今まで何のために戦い、町中の迫害にも耐えてきたのか。

「もう、やだ……」

頭を抱え、蹲る。
世の中の全てのものを受け付けまいと、首を振って目を閉じ、耳を手で塞いだ。

「やだ、やだ、やだ……!」

か細い、悲痛の叫び。
シスはそれを哀れに思い玉座から立ち上がろうとしたが、ふいにフユから莫大な魔力が放出され、途端に周囲の悪魔が塵となって消えた。

魔力の暴走だった。

「くっ……、フユ!」
「やだ、やだ! 一人は嫌だ!」
「フユ、落ち着け!」

重厚な城の室内が、魔力の波を受けてどんどん破壊されていく。
魔王であるシスですら、やすやすと近付けない程の力だ。

シスは舌打ちした。
フユに真実を伝えたのは良かったが、一気に話しすぎた。もう彼の心は崩壊寸前だったのに、そこにとどめをさしてしまったのだ。
フユを、人間界の縛りから解放させたかっただけなのに。
悲鳴を挙げ、泣きながら暴走するフユが、可哀想で、そしてなにより、愛しくて堪らない。

気付けばシスは、勢いのままに魔力を放出するフユに近付き、その体を抱きしめていた。




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