03




『フユ、なにをしているんだ?』
「花に水をあげてる」
『花が好きなのか?』
「うん」

『きちんと食事をとっているか?』
「うん」
『今日はなにを食べたんだ?』
「りんご」
『馬鹿者』


シスは、毎日少しだけフユの脳内に話しかけてきた。
フユの生活ぶりを尋ねて、たまに不規則な生活をしていると、長いお説教をしてくる時もある。それはフユにとって少しだけ鬱陶しいものであるけれど、シスがフユを心配しているのだということが伝わってくるので、何も言い返せない。誰かに心配されるというのが久しぶりのことで、フユは戸惑っていた。

シスとフユは、たくさんの会話をした。
笑ったり、怒ったりして、フユは本当に楽しかった。
シスに、フユ自身の話をしたこともあった。町中から嫌われていることを話すと、シスはフユを慰めてくれた。
シスは悪魔なのに、フユはシスとの会話をずっと続けたいと思った。



そんな中で、コスラー帝国の戦況はますます過酷なものとなっていた。
悪魔の勢いは凄まじく、もういつ帝国を占拠されてもおかしくはなかった。実際、帝国の外に悪魔の気配がしていることをフユは感じ取っていて、なんとなく、この帝国、そして人間界の終わりを予感していた。

そんなある日、フユは帝国の大臣に呼ばれた。
大臣はいつかのツヤのある顔ではなく、どこか憔悴した顔つきになっていた。周りを見れば兵士らも同じで、皆この戦況に絶望しているようだった。

「お前に、最後の任務を言い渡したい。これが終われば、両親を解放しよう」

大臣の言葉に、フユは歓喜した。
やっと、両親が解放される。約10年もの間、こうして帝国の駒になってきたが、それがようやく終わるのだ。

しかし大臣は、喜ぶフユにこう言い渡した。

魔王を倒せ。

明日、魔王が直接この城に攻めてくる。
もちろん城の兵士が魔王を迎え撃つが、それだけでは到底勝てない。
これから町中に知らせを出し、男たちに集まってもらう予定だ。
帝国の総力をあげて戦いたい。
それには、フユの力が必要だ。
今まで、フユには辛い思いをさせて悪かったと思っている。
明日、我らと共に魔王と戦ってくれないか。
もし魔王に勝てれば、お前は英雄だ。
だからどうか、よろしく頼む。


大臣は深々とフユに頭を下げた。
フユはこれまで町人にされた酷い仕打ちの記憶が、それによって泡となって消えて行くのを感じた。

もし、魔王に勝てれば両親は帰ってくるし、町中が自分を認めてくれる。
それに、魔王と戦うのは自分一人ではない。町中が、一緒になって戦うのだ。

フユは大臣の目を見て、しっかりと頷いた。
輝かしい未来を信じ、フユは戦う決意をした。


その日、シスがフユに話しかけてくることはなかった。









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