02




そしてフユは、帝国の兵士になった。
周りはフユを兵器と呼んで、人扱いはしない。実際、悪魔の血が半分通っているフユの身体能力は、普通の人間どころか、何故か純粋な悪魔にすら優っていた。魔力も高く、フユは人間から大いに牽制や軽蔑をされながらも、確実に戦争において大きな働きをした。
戦争に何度も駆り出され、負け戦と言われた戦いを勝利とはいかずとも互角に張り合ってみせたのだった。

今にも悪魔に侵略されそうな帝国だったが、フユがそれを妨げる形となっている。しかし帝国や町人はそれに感謝するどころか、未だにフユを通して悪魔を恨み続けていた。

戦争から帰ってきたフユを捕まえては、町人は理不尽な暴行を加えた。
フユは、悪魔の血のせいか傷がすぐに治癒するため、特に反撃をしない。それに、大臣に民の気持ちを刺激しないようにと普段からキツく言われている。
もしフユが町人たちに手をあげれば、すぐにでも両親が殺されてしまうだろう。
フユには、町人の暴行を受け止める他になす術がなかった。


だんだん傷が治癒してきたことを自覚して、フユは流れた涙を拭った。
別に眠くはなかったが、せっかくベッドに寝転がったのだから、とそっと目を閉じる。

静かな室内で、フユは小さくため息を吐いた。今日もたくさんの人に暴言を吐かれ、悪意にさらされた。
目を閉じると、今日一日の嫌な出来事が頭に過る。毎晩のことだが、フユはこの時が一番嫌いだった。自分には居場所がないのだと思い知らされてしまうからだ。

もうさっさと寝てしまおう。
嫌な記憶を振り払うように頭を振り、横向きにごろりと寝返りを打った。
その時。


『……フユ……』


頭の奥で、自分を呼ぶ声がした。
フユはパチリと目を開ける。

「誰……?」

誰かが自分を呼んだのだろうかと、キョロキョロと辺りを窺う。
しかし、人の姿は見当たらない。
そうしていると、 再び頭に誰かの声が響く。

『聞こえるか、フユ……』
「誰」

低い、男の声だ。
しかし相変わらず人の姿は見えない。
おそらく魔力で直接脳内に話しかけてきているのだろうと、フユは予想した。

それならば、相手は悪魔である可能性が極めて高い。人間には魔力などないからだ。
悪魔ならば、敵だ。
途端に鋭くなったフユの声音を聞き、声の主は面白そうに笑った。

『まだ知る必要はない。しかし今は分からずとも、すぐに分かる時がくる』
「……そうなの?」
『あぁ。だからそれまで、俺の話し相手になってくれるか』

優しい声だった。そこに、フユに危害を加えようとする意思は感じられない。
悪魔かどうか疑いたくなるほどに、穏やかだ。
フユはキョトンとしてしまった。

「話し相手……?」
『あぁ、俺も少々暇でな』

フユの敵意を根こそぎ奪うように、相手はのんびりとそう言った。

この男、何を考えているんだろう。
訳が分からず、フユはそんなことを思った。

「なんで俺……?」
『お前、質問ばかりだな』

また、相手が面白そうに笑う。
フユにはなにがそんなに面白いのかよく分からなかったが、とりあえず相手が落ち着くまで待った。

「話し相手、なってもいいよ」
『そうか』
「悪魔と話したいと思っていたんだ」
『ほぉ、なるほど』

悪魔は、フユにとっては敵だ。
しかしそれは、戦場での話。
家の中でくらい、誰かとこうして話していたい。例え、相手が敵であっても。

フユのそんな思いを知ってか知らずか、相手の男は名乗った。
男は、シスといった。

それから、フユには小さな安らぎのひと時ができた。




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