01




痛む体を横たえて、フユは自室の天井を見た。
悲しくなんてなかったが、無意識に涙が目尻から流れた。


フユは、悪魔と人間の間に生まれた。
尖った耳、色白の体、紅い瞳は人間界では決して受け入れられる容姿ではなく、毎日町中から迫害を受けている。
今日も今日とて、町の若い兵士数人に酷い暴行をされた。
フラフラになりながら家に帰って、一人、ベッドで体を横たえる。

この世界は、人間と悪魔とで長い戦争が続いている。
昔は互いに不干渉たることを誓約し、争うこともなくそれぞれ平和に過ごしてきたが、人間が徐々に文明を築き上げてきてから、それが変わった。
人間同士の領土を懸けた戦いで勝利を収め、人間界の王となったコスラー帝国の王は、今なら魔界をも侵略できようと、誓約を破り魔界に突然総攻撃をかけた。
魔力や身体能力が人間よりも遥かに高い悪魔たちでも不意打ちの攻撃にはさすがに対処できず、多くの悪魔が死んだ。
激減した悪魔たちは同胞の死にそれはそれは怒り狂い、開戦の運びとなった。
力では圧倒的に悪魔たちの方が上だが、如何せん数が少なく、戦いは互角のまま長い時を経た。

それから200年の時が経った現在は、悪魔側の優勢。
昔と比べ、悪魔の数が増えてきたことがその原因だ。
最初こそは優勢だったもののすぐに形成逆転され、たくさんの人間が悪魔との戦いで死に、もしや悪魔にこの世を征服されるのではないかと、皆が恐れていた。


フユの両親のことを、フユ自身はあまり覚えていない。
現在、フユの両親の身柄は帝国に捕らえられている。

フユがまだ幼かった頃、町でとある病が流行って多くの人が亡くなった。
原因や治療法が不明のその病に憔悴しきった一人の町人が、原因は悪魔であるフユの父にあると言った。
あいつが呪いをかけて人々を苦しめている、という根拠もなにもない言葉だったが、病に死にゆく家族を抱える多くの人がそれに賛同した。
そうして町外れに住んでいたフユの家族は、急に家に押し寄せてきた町人たちに捕らえられた。
町の中央で両親が磔にされ、そこに火をつけられるのを、フユは町人に取り押さえられながら見ていた。

両親の耳をつんざくような悲鳴を聞きながら、フユはショックで意識を失った。
そして目が覚めると、いつの間にか帝国の城の中の一室にいた。

そこでフユは、帝国の大臣にこう言われた。

両親はまだ生きている。
現在、帝国お抱えの医師によって治療が施されている。
しかし今現在の戦争や流行病の状況から、民の気持ちを第一に考えると両親が回復しても解放する訳にはいかない。
場合によっては、処刑も辞さない。

幼いフユには、難しい話だったが、両親が殺されるかもしれないと聞いて焦った。どうかそれだけはやめて、なんでもするから、と大臣に縋ると、彼は優しい笑みを浮かべた。

君がそこまで言うなら、処刑を取り止めてもいい。
ただし、我が帝国のために君が尽くすことを誓いなさい。
君の働きを見て、両親を治療の後に解放しよう。



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